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第38話 心ここにあらず

「ちみたち、あちきの呼び出しを無視するとはいい度胸なのら」

 小学生4人の前に立って怒っているみため4年生のかりんは小さな手で夢の頬を叩いた。

「痛!何をする」

「痛いのら。でも、無視されたあちきの心はもっと痛かったのら」

 胸に手を当ててしおらしく呟いているかりんの隣を頼んだ品を持った店員が通った。夢たちはかりんの話を聞かず各自に配り始めた。

「夢、はいコーラ」

「詩音ありがと。これ聖弥の?一つもらっていい?」

「かまいませんよ。誠君も突っ立てないで座ったらどうです」

 俺は聖弥と龍真に挟まれるようにして座った。目の前のテーブルには手際よく飲み物や食べ物が並べられていった。

「って、あちきの話を聞くのら!それに、これはあちきのお金で買ったのだと分かっているのか」

 かりんはテーブルをひっくり返そうとしたが床に固定されていて投げられなかった。引っ込みがつかなくなったかりんはテーブルを叩くしかなかったようだ。

 そのかりんに詩音が手馴れたようにおまけのおもちゃを差し出した。

「かりんにはこれをあげるから大人しく遊んでおいで」

「わ〜い、飛行機だ。ぶ〜ん楽しいなあ。って、あちきを馬鹿にしてるのか!」

「馬鹿にはしてない。かりんは本当に馬鹿なだけ」

「はは、東ちゃんの言うとおりだ。いい加減大人しく座れよ」

 かりんを手招きする虎之耶は舞と夢に挟まれて座っていた。かりんは頬を膨らませながら虎之耶と舞の間に無理矢理入り込んだ。

 するとかりんは目の前のドリンクの中身を確認せず飲み出した。しかし、すぐにむせてた。

「苦い。誰なのらにがりドリンクを頼んだのは」

「買ったのはお前だろうが。落ち着け、さっきから変だぞ」

 虎之耶になだめられたかりんは深呼吸をしてその場にたった。

「皆の衆、心配をかけたのら」

「誰も心配なんてしてねぇよ」

「ああ、してないしてない」

 龍真のボヤキに夢も頷いていた。だが、落ち着いたかりんは2人に噛み付くことは無かった。それを見た夢と詩音はおふざけはここまでかと椅子に深く座った。

「なら、かりんも落ち着いたみたいだし自己紹介でもするか」

 虎之耶がようやく進めようとしたがかりんがまた厄介なことにした。

「ちなみに、面白い自己紹介をした子には重役を任命してあげるのら」

 これは頑張らなければならないのだろうか。生徒会での重役というと経理ぐらいだがそんな役目を負うのは面倒だろう。だが、かりんのことだ。何を考えているか。

「あちきら2人はもう分かっているともうのら。だからぁ、夢ちんから」

 かりんは隣の夢におもちゃのマイクを渡した。

「星川小5-3神原夢。危険な姉が一人いてみんな気をつけるように」

 夢は自己紹介と言えないような自己紹介をしてマイクを次に回した。

「同じく5-3東詩音。これといって言うことはないです」

「5-2南海堂聖弥。以上」

「七ヶ橋小赤井龍真。自意識過剰な兄が1人いるな」

 そして、俺にマイクが回された。

「星川小5-1五十嵐誠。俺にも歳の離れた兄が1人いるだけだな」

 最後にマイクを受け取ったのは舞だった。今までの流れではみんなやる気が無いようだ。だが、舞は正直で真面目ないい子だ。それはみんな認める。だけど、彼女はあわせるということを学んだ方がいい。

「星川小学校5-4早瀬舞です。えっと……兄…が1人います。兄は星川中学校で保健の先生をやっています。私も小学校で保健委員をやっています。部活には入っていませんけど、たまに吹奏楽部のお手伝いもしてます」

 やっぱり、一人だけまともな自己紹介。それ以外のみんなはやる気が無いようだ。

 もちろん、かりん様はそんな自己紹介では満足いかず怒っているようだ。

「何なのら何なのら。ちみたち生きているのか?あちきが小学生だった頃はもっと溌剌として明るい子だったのらよ」

「ま〜しゃあないって、俺達のハイクオリティーな小学生ライフを上回る奴らなんていやしないって」

 かりんががっかりしたタイミングを図ったかのようにケータイの着信音が流れた。ケータイの持ち主は詩音で電話に出ていた。そのケータイは生徒会の支給品ではなくメーカーの個人用のようだ。短い会話を済ませると詩音は鞄を持って席を立った。

「急用ができたので帰ります」

「待つのらシオちん。あちきたちを残して帰るなんてその用事がそんなに大事なのらか」

「凛が呼んでいるので、約束しましたよね。生徒会は手伝いますが凛を最優先させてもらうと。では、また明日」

 詩音が帰っていくのに続いて龍真が立った。

「兄貴、俺そろそろ帰るわ」

「そうだな、親父の機嫌が悪かったから俺も帰るか」

 龍真と一緒に虎之耶も帰っていった。2人と入れ替わるかのように早瀬優雅がきた。

 中学からすぐ来たらしくスーツ姿の優雅は学生溢れる店内で浮いていた。

「舞、帰りますよ」

「待つのらユウガちん。マイちんは今あちきが預かっているのら」

 かりんが呼び止めるも舞は帰る支度をしていた。それに優雅はかりんを叱るように強めの口調でかりんを脅していた。

「いいですかかりん。何でも自分の思うようになると思っているといつか後悔しますよ」

「それではみんなさようならです」

 舞はペコリと頭を下げて帰っていった。そして、次に動いたのは夢だ。

「ユメちんも帰るのか」

「帰るのかって、この人数で多数決もできないだろうが。やることも無いだろうし帰る」

 多数決とは聖弥に聞いた話だとこの生徒会の決定方法らしい。臨海学校でやるイベントやゲームを実際に俺達でやってみてその企画を採用するかどうかを多数決で決めるらしい。なので、この人数で検討しても多数決ができないのだ。

 夢もいなくなって俺と聖弥とかりんの3人だけになった。

「では、自分達も帰りましょうか」

 俺は聖弥の誘いを受け席をたった。すると、かりんは俺の服の裾を小さく握っていた。

「帰るの?あちき1人は嫌」

「今更しおらしく引き止めてるんじゃねえよ」

「けっ、わあかったのら。さっさと帰れなのら」

 俺達はかりんに追い出されるように店から出た。すると、出口には虎之耶が一人でいた。

「ようやく出てきたか。んじゃ、三人で話そうや」

 俺達は虎之耶と駅への道を歩くことにした。


「何を企んでいるんだ」

 俺と聖弥と虎之耶の3人は夕日と夜の混ざり合う紫がかった空の下を駅へ向けて足を運んでいた。流石にこの時間帯にもなると小学生の姿は見えずそれどころか高校生ばかりだ。その中の俺達の存在は少々奇異な目で見られていた。

 俺はこのできすぎた出会いについて虎之耶に訪ねた。あのみんな合わせたかのようなやる気のなさ。特に、話に聞いていた夢と詩音だ。あの2人、話どおりだともっと騒がしいと聞いていた。なのに、あの心ここにあらずな感じは想像したものとは違った。

「企む?違うな。正確には企んでいた、だ。すでに計画は完遂した。マコマコ、日本語は正しく使わないとな」

「だから、何を企んでいたんだ」

「まー今回はセイセイの発案なんだけどな」

 聖弥の?俺は聖弥を見た。今回のおかしな出会いは彼のたくらみでこの結末を迎えたらしい。その当人は大きな欠伸をしながら頬をかいていた。

「企むだなんてそんな。自分はただ皆さんの要望にこたえただけですよ」

「要望?」

「今回の集まり。弟を含めみんな都合が悪かったんだ」

 虎之耶が生徒会初心者の俺にかりん生徒会の集合の意味を教えてくれた。

「生徒会の集まりは俺が集めるのとかりんが集めるかの二つがあるんだ。で、かりんの集まりは時間が掛かるんだ。あいつの会合は早く済んでも8時過ぎで、最悪の場合10時を過ぎることもあるんだ。用事があるときにそんなことされると迷惑だろ」

「なので、自分が策を立てたんですよ。一度集めて解散したらかりんも諦めるでしょうから」

「かりんを騙すほどの用事って何なんだ」

「龍真はあれだ。親父が帰るまでに家に帰らなきゃならないからな。もし、今日も遅くなったら野営決定だったな。早瀬ちゃんは見た通り優雅の管理が厳しいみたいだし帰りが遅くなると大騒ぎされるみたいなんだ」

「確か、夢は姉に呼び出されていたとか。夢も姉には逆らえないみたいですし。詩音は今日友達の大事な日だとか」

 何かとみんな忙しいんだな。もし、俺がそんな状況だったらのんきにミャクドナルトでコーラを飲んでいられないだろうな。

「そんなに大事な用事があるならなんでみんな来たんだ?」

「誠君も見たはずです。かりんのしつこい電話を。なので、しぶしぶ集まったということですね。それに、一度集まって解散したのをまた集めるなんて野暮なこといくらかりんでもするはずないでしょ」

 なるほど、電話で断ってもあのかりんは諦めない。けど、二度も集める気は無い。人間の心理を読んだ策だ。さすが天才と騒がれるほどだけあるな。

「かりんには悪かったけど今回はしょうがねぇよ。ま、俺が上手く落ち着かせておくから心配するな」

 

 俺と聖弥は駅へ、虎之耶は家へ帰るために途中で別れた。俺と聖弥が駅へ着いた時には黒い夜になっていた。もし、かりんに付き合っていたらこの時間になっても拘束されていたのだろう。そう考えると聖弥に感謝だな。

「どうでしたか生徒会メンバーの印象は」

 聖弥の差し出したガムをもらいホームで電車を待っていた。鼻に爽やかな空気が入ってくる。

「退屈しない代わりに休息もなさそうだな。常に頭を使ってないと飲み込まれそうだ」

「そうですか。五十嵐誠、意外とお馬鹿さんなんですね」

「悪口と捕らえていいのか?」

 睨みを利かせると聖弥は子供のように笑った。

「ええ、構いませんよ。あのメンバー相手に頭で勝負しょうと考えているんです。馬鹿としか言いようが無いです」

「それなら、俺と同じタイプの聖弥はどうやって付き合ってるんだ。さっきの考えを聞くと頭を使っているように見えるが」

 聖弥は唸りながら首を傾げていた。答えるのを渋っていたようだが自信なさげに答えた。

「多少は使ってますけどね。彼女達と付き合うなら謀略などを考えないことです。自分の思いで付き合わないとやっていけませんよ」

 知恵無しの真っ直ぐな付き合い。俺の苦手な……小さな時置いてきた生き方だ。


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