表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/42

第21話 二羽の鳥

 その日から俺と珊瑚との間には距離ができた。珊瑚から逃げる俺は惨めだった。

「慎也君元気ないよ」

「そんなことないぞ」

 シュートしてみるが入らない。あの日からスランプが続いている。

「慎也君やっぱり調子悪いんじゃない」

「大丈夫だってわざと外しているだけだからさ」

「いや、シンシンはスランプだ」

 中学校も試合が近いのにこの人は何をしに来ているのだか。

「そんなこと無いですよ」

「なら本気で入れてみろよ」

 集中、集中、ここで外すわけにはいかないんだ。

 久しく見ていないほど綺麗に入った。

「よし、どうだ」

 ガッツポーズをとった。

キャプテンに胸を張る。しかし、キャプテンも愛華も浮かない顔だ。

「かなりスランプなんだな。頑張れよ」

 なんだよその可哀想なものを見るような目は、綺麗に入っただろうが。

「前の慎也君はシュート決めてもあんなに喜ばなかったよ」

 愛華に言われると恥ずかしい。握り締めた拳を緩め頭をかいた。

「やっぱりキャプテンには分かるか。何かアドバイスは無いですか」

 キャプテンを頼るなんて相当参っていたようだ。

「可愛い女の子と楽しく話す」

「聞いた自分が馬鹿でした」

「拳を震わせながら感動しないの。でもよ、誰かに話をするだけで直る時もあるぞ」

 キャプテンは目的の南海堂を見つけたようでそのまま帰っていった。

 話か。今は少しでもこの気持ちを晴らしたかった。

「愛華、話を聞いてくれないか」

「うん、いいよ」

 体育館の隅に座り手を繋いで話を聞いてもらった。



「俺ある人を傷つけたんだ」

「瑠璃川さんのこと」

 特徴も言っていないのにすぐに当てられた。

「どうして分かった」

「慎也君最近瑠璃川さんのこと避けてたから」

 自分では気付かれないようにやっていたつもりなのにやっぱり分かるんだ。

「俺珊瑚の目標を台無しにしたんだ。目標を失った珊瑚は前と変わって不器用な愛想笑いしかできなくなった。そんな俺が、そんな最低な俺が目標を目指していいのかなって、笑っていていいのかなって思って」

「それでも瑠璃川さんを避けなくてもいいんじゃない」

 それは自分でも分かっていた。

「そうなんだけど珊瑚の無理した笑顔を見たくないんだ」

 あやまりたくても笑顔でいいよと言われるだけだ。そんな珊瑚を見たくない。見られない。

「慎也君。私達付き合っているんだよね」

 不意に聞かれた答えの決まっている質問をされ戸惑ったがすぐに答えた。

「あたりまえだろ」

「それなら……」

 強く左手を握られた。愛華の言葉から逃げられないように錯覚させられるように強く感じた。

「それなら私だけを見てよ。瑠璃川さんのことなんて考えないで私のことだけを考えていてよ」

「愛華…」

「慎也君の隣には私がいるから慎也君を苦しめるようなことは言わないからだから、ね」

 励まそうとしているのだろう。それなのに俺はまだ珊瑚のことが気がかりだった。

「あっ、うん」

 必死に忘れさせようとしてくれる愛華のことなど分からず適当な返事しかできなかった。

 まだ珊瑚のことを忘れられないんだと愛華も気づいているのだろう。

 励まそうとして笑ってくれた笑顔は俺が最後に見た珊瑚の笑顔と同じだった。


 次の日の昼休み。このときが俺の人生を少し変えるときだった。


「慎也、龍真はもう大丈夫なのか」

 いつもの5人で話していたが五十嵐がどこかに行ってしまい成り行きで珊瑚と話すことになった。

「もう退院して学校にも通ってるらしいぞ」

「そうか、それはよかったな」

 お互い顔を見ないでの会話。そして沈黙。

「し、慎也君スランプはもう大丈夫なの」

「いや、より酷くなったかもな」

「そうなの。頑張ってね」

「おう」

 そして沈黙。

 俺達三人の沈黙を呼ぶ空気に嫌気が挿した伊藤が俺に噛み付いてきた。

「さっきからあんた達はなんなのよ。なにかあったの、ねえ」

「……」

「……」

「……」

 三人とも伊藤から目を背けて黙るだけだった。

「あーもう、中本ちょっと来なさい」

 伊藤に手を引かれ教室を出された。

 二人の間に挟まれていた俺としてはありがたいが愛華には悪いことをしたと思う。



 伊藤に連れてこられたのは屋上だった。ここの屋上は柵が無く危険なので本来出ることはできない。できないのだが伊藤はここの鍵を持っていたようだ。

「どうしてそんな物持ってるんだ」

「かりんがくれたの」

 夏が近づいているにも関わらず涼しい風が吹いていた。

 伊藤は風にあおられた長い髪を押さえながら屋上と空の分かれ目ギリギリに立った。

「危ないぞ」

 だが振り向いた伊藤の目には絶対の自信と余裕があった。

「愛華と仲良くなるにはここに立つってこと」

 落ちるギリギリの所を歩き出した。

「一歩間違えればすぐに終る。一歩踏み出せばすぐに安全な所へいける。でも、ここじゃないと見えない景色がある」

 伊藤は生死の狭間を笑顔で楽しんでいる。

「不安、恐怖、人生全てをかけても得られるのは小さな本当に小さな喜びだけ」

 俺を見る伊藤の目は強かった。

「中本はここに立つことができる?」

「できるさ」

 勢いよく乗ったのはいいが半端ない怖さだ。心地良かったそよ風が空への手招きのようだ。

「中本は愛華と付き合ってるんだよね」

「そうだが」

 お互い真っ直ぐ見詰め合っての会話。俺の好きなものだけどこれは好きになれない。

「ならどうして愛華は笑ってくれないの。どうしてずっと辛そうな顔をしているの」

「伊藤には関係ない。俺達の問題だから」

「関係ない?あんたと付き合うから愛華はずっと幸せになってくれると期待させておいてこれ?ふざけんじゃねえよ」

 伊藤に胸倉をつかまれた。同じ身長のはずなのに伊藤が大きく脅威に見えた。それ以上にこの足場で暴れられたら…こいつ足元に意識が行ってない。

「あんた達を付き合わせるためにどれだけの努力と犠牲を払ったか分かって言ってるのか」

「伊藤落ち着けって危ないだろ」

 きっと試されたのだろう。俺がどうするのか神様に試されたと思うしかない。

 そよ風の間に吹いた突風、俺達二人はバランスを崩した。

 俺一人なら確実に助かるだろう。だが、伊藤もとなると……

 

伊藤を屋上に残して俺は空を選んだ。


 人間って死ぬ時走馬灯を見るって言うけどそんなもん見る暇もなく地面に背中を打ちつけた。


 やべ、完全に左腕が折れた。足も痛い。


 口の中も血の味で一杯だ。


 はは、吐血してる。


 俺死ぬんだろうな。


 あっ、バスケの試合に出れないだろな。


 珊瑚の試合も応援行けないだろうな。


 また嘘ついちゃったな。


 愛華との約束も守れなかったな。


 せっかく練習したのに。


 五十嵐は葬式に来てくれるかな。


 愛華はずっと泣いてくれるかな。


 珊瑚にも泣いてもらいたいな。



 ああ、これが走馬灯なんだ。




 もうどうでもいいや。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ