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第2話  夢は遥かかなたに見るもの

「中本君って友達多いよね」

「小学からの付き合いだし、中には幼稚園からの友達もいるからな」

「羨ましいな、私の友達は中本君だけなんだよね」

「………小学の時の友達は」

「全然、転校したてだったし」

「そっか」

 で、中学で新しく友達を作ってできたのが俺だったということか。

「中本君の将来の夢って何」

「卒業文集に書いたはずだけど」

 松島は苦い顔をしていた。

「文集貰ってないんだ。アルバムも、私の物って何も無かったから……で、夢は」

「大学教授」

「何それ、もっと子供らしい夢は無いの」

「そんなお前の夢はなんだよ」

 松島は夜空を見上げながら

「友達一〇〇人できるかな」

 と、笑顔で答えた。自分で言っているくせに何が面白いのか笑っていた。

「でも一〇〇人の名前覚えられないよね」

「苗字だけなら一〇〇人言えるぞ。六年間も付きあっていると嫌でも覚えるさ」

「じゃあ、半分の五〇人ならできるかな」

「自分しだいじゃないの」

「どうすればいいの」

 机に座っているだけだと多くて三人までだ。自分から立ち上がって人に近づく、そして自分を知ってもらう。そうすれば相手のことも分かってくる。話し掛ける切っ掛けが欲しければその人を良く見る。その人の会話を良く聞く。そして自分との共通点を見つける。そうすれば話ができる。その話に相手が食い付けば相手から話し掛けてくる。そこまでくれば自然と友達は増えていく。友達の友達、そのまたの友達、友達はそうやって増やすんだと教えた。

「へー、中本君って説明してる時楽しそうだね」

「だから、大学教授」

「なるほどね」

 松島は一軒の家の前で止まった。二階建ての家の中からは全く光が出ていなくて留守を主張していた。松島は鞄から鍵を取り出した。

「親は仕事なのか」

「うん、明日の夜まで帰ってこないんだ。泊まってく」

「馬鹿じゃない。まだ会ったばかりの男に向かって言うことか」

「あはは、なら夏休みあたりに誘ってみようかな」

「それまでには、俺にも彼女がいるかもよ」

 松島は俺を下から上へゆっくり見てから苦笑いをした。

「無理でしょ」

「そうかもな」

 松島は笑っていた。そんなくだらないやり取りで久々にそして自然に薄っすらと笑えた。

「中本君の友達術、信じてみようかな」

「おう、実証済みだ」

 松島は小さく手を振ってから家の中に入って行った。俺もすっかり暗くなった夜道を歩いた。松島のおかげで、夜道を歩きながら星空を見るのも楽しいことだと分かった。


 次の朝、松島はいつもより早く登校して来た。チャイムの一〇分前だったが、その一〇分間は女の子同士で話しているようだった。

「中本、あの新作のゲーム何処まで行った」

「みんなと同じ、ライバルが出てくる所まで」

 俺は、五人ほどの集まりでゲームの話をしていた。

「あいつ異常に強くないか」

「そうだよな、俺一回負けたし」

 みんなが同じ話題で盛り上がっている中、一人だけ話についていけない奴がいた。そいつは、そのゲームをまだやったことが無いようだ。

「確か、あのライバルって前作に出てきたよな」

 俺は話しについていけてないそいつに話しかけた。そいつは、前作はやったことがあると言っていたはずだ。

「どんな奴」

「赤い髪の奴」

「ああ、主人公の弟だった奴ね」

「えっ、あの強い奴前作のキャラなの」

「あ、うん。赤い髪で銃を持ってる奴でしよ」

 さっきまで話に参加できていなかったそいつが話の輪に入り始めたら俺は、その話の輪から一歩ずつ離れていった。そのまま俺は自分の席に着いた。

 自分の席に座りながら教室中を見渡した。小さなグループが五つ、大きなグループが二つある。松島は二つの小さなグループの間を行ったり来たりしている。松島が席に戻ってきたのは担任が入って来た時だ。

「中本君、沢山の子と話せたよ」

「あーそうかい、それはよかったな」

「あとね、友達もできたの。後で紹介してあげる」

 昼休み、俺は学校中を見て歩いていた。入学して二週間が経つが、今まで使った事の無い教室が幾つもあった。その探索の途中にクラスの女子の集まりを見つけた。廊下の片側に陣取って五人ぐらいで話していた。その顔はいつのみたいに笑って話しているものではなく、愚痴をこぼしている顔だ。

「中本君、ちょっといい」

 素通りしようと思ったが呼び止められた。そのまま歩いていってもよかったのだが、呼び止めたのは伊藤だった。伊藤は女子の中で纏め役をしていて、その力はクラスだけならず同学年や下級生にも伝わるほどのものだった。伊藤に目を付けられたら厄介なことになる。

「何か用ですか」

「松島って何なの。図々しいしうるさいし、正直邪魔だよね」

 集まっている女子全員が伊藤の愚痴に納得している。どうやら松島は伊藤の逆鱗に触れてしまっていたようだ。でも、松島は伊藤に話し掛けてはいなかったはずだが、

「なぜ俺が愚痴を聞く役なんでしょうか」

「中本君も思うでしょ、いつも付きまとわれて」

 確かに授業中ですらくだらない質問をされたり、周りの空気を読まない松島の相手をするのは疲れる。でも、

「まあ、俺はさ、あれだったから、そんなの気にしないようにしてるから」

 そう答えると、さっきまで不機嫌だった女子達は気まずそうな顔に変わって行った。

「そっ、そうだったね………ごめん」

「もう行ってもいいですか」

「うん、ありがと」

 俺は笑いながら教室に戻った。


「中本君、私のお友達紹介するね。斎条愛華ちゃん」

「中本君………久しぶり」

「久しぶり。って、同じクラスじゃん」

 いつもの長い道、そこで松島が連れていたのは斎条だった。大人しくて優しい子だ。だから、松島の話し相手にでもなってやったのだろう。ゆっくりマイペースな斎条には、松島が加わって丁度よくなりそうだ。それにしても斎条の気まずそうな顔が気になる。

「斎条、どうした。体調でも悪いのか」

「そんなんじゃないの、………あのね、中本君。……小学校の時は……」

「中本君じゃあね。今日は愛華ちゃんと二人っきりで帰りたいから」

「そうか、じゃあな。松島、斎条」

 家に帰った俺は机の前に座っていた。机の本棚には俺の切り札のノートが入っている。その中の一冊を取りサ行のページを開いていた。その中に書かれている斎条愛華の名前と詳細、斎条に会ってから何かが引っかかる感じがしていた。昔には無かったもので、何かは分からないがその分からないものが俺に何かを伝えようとしていた。

「斎条愛華、伊藤未来のお気に入りで斎条に下手に手を出すと伊藤に目を付けられる恐れあり」

 斎条の所には赤字でそう書かれていた。だから伊藤は俺にあんな質問をしてきたんだと分かった。松島の目の付け所はよかった。が、六年間でえた情報、伊藤と斎条の関係を知らないのは大きな問題だったようだ。

「注意しないと干されるぞ」


 翌日、松島は斎条と楽しげに話している。その話の輪には伊藤の姿もあった。松島は七人の中心で話していて、その話を聞いている伊藤も笑顔だ。見た感じでは全く問題は無く逆に好印象を与えているようだ。このまま伊藤と繋がりを作れればあいつの友達問題は終りそうだ。

「何見てるんだよ」

 俺の目の前に立っているのは仕切り好きで俺の最初の友達だ。小四の頃からいつも側にいてくれた。おかげでこいつに出会ってから一人になったことは無かった。

「その目線上には斎条の姿が……愛ですか」

「愛ですか、じゃない。ただすごい奴だなって思ってさ」

 斎条の横にいるのは松島だ。まだ一ヶ月も経っていないのに伊藤にあそこまで気に入られるのは、今の俺でも無理かもしれない。元々あいつは、友達を作れる奴だったんだ。その作る切っ掛けが無かっただけなのかもしれない。

「あいつか、確かにすごいよ。俺達の固定され尽くされた輪の中にあれだけ入ってきてるんだからな。昔の誰かを見てるようだよ」

「あーそうかい」

 チャイムが鳴っても担任が入ってくるギリギリまで松島は席に戻ってこなかった。


「中本君、ちょっといい」

 昼休み、俺の所に伊藤が来て、教室の外を指さしていた。伊藤の横には斎条がいた。それを見た松島は立ち上がり斎条の横についた。

「じゃあ、私も」

「悪いけど、今は中本君だけがいいの。ごめんね」

 斎条は手を合わせて謝っていた。俺は斎条に手を引かれて教室から出された。何ですかこの雰囲気は、まさに告白の空気。斎条の付き添いに伊藤、二人とも真剣な顔をしていつもらしくない。期待大ですよ。

 校舎の隅、屋上に出る扉の前まで連れてこられた。連れてこられるまでのドキドキは着いた瞬間に別のものに変わった。伊藤の他にも女子が五人、男子が三人、同じ学年だが違う組の同級生ばかりが集まっている。集まっている奴らの共通点それは、どれもリーダーシップが高くみんなに頼りにされ高い信頼を得ている者達ばかりだ。そんなやつらが真剣な目付き、まさか、非公開式の制裁。法律によらないで、暴力によって行う私的な刑罰。簡単に言うとリンチですか。

「俺は何のために拉致されたのでしょうか」

「会合よ、会合。各組での出来事とかこれからのルールとか決めるの」

 俺のボケすら無視して伊藤は真剣な口調だった。ここにいる奴は誰もふざけた顔はしていなかった。

「ルールって、そんな事先生言ってなかったけど」

「学校のルールじゃなくて、私達生徒だけのルール。暗黙のルールってこと、知らないの」

「未来、中本君は今回が初めてだからよく分からないんだよ」

 斎条に注意されて伊藤はしくじったような顔をした。ここいる誰もがそんな顔をしていた。

「この会合はね、小学校の頃からやっていたことで、みんなを纏める人達で決め事を作って、それをみんなで守って守らせて今の状態を維持して行くためのものなの」

「それなら五十嵐の方が適任だと思うんだが」

 いつも俺や友達を仕切っていたのはあいつの方だ。そうなると、あいつはこの会合に出ていたのだろうか。

「小学校まではそうだったんだけど、中学での調査で中本君の方が支持されていたからさ。それに、五十嵐君から願い出てきたんだよ」

「くやしいが、男子が一番支持していたのがお前だったんだよ」

 一人を皮切りにみんなが話し始めた。そのまま各自の連絡が始まったようだ。

「はい、では本題に入ります」

 伊藤が手を叩いた。どうやら伊藤が議長らしい。

「本題って、何マジにやってるんだか」

「副議長がそんなこと言わないの」

「俺、副議長ですか」

「はい、何も知らない副議長は黙っていてください。では、前回の議題の松島についてですが、予定通り前面無視に決まりましたのでよろしくお願いします」

 みんなは返事をした。どうやらみんな内容をよく理解しているようだ。

「ちょい待ち、前面無視っていじめですか」

「そうだが、分かるでしょ」

「俺はいじめを決めるために呼ばれたのか」

 周囲に暗い空気が流れた。一部の奴は罪悪感があるみたいだ。

「これは決まったことなの。まだ一ヶ月も経っていないのに松島に対する苦情は相当な数になっているの。このままだとみんなの秩序が乱れる恐れがある。その対策として、松島を私達の中から完全に追い出すの」

「苦情ってなんだよ。見ていたけど、松島と話してた奴らはみんな笑ってたぞ。斎条や伊藤も楽しそうに話してたじゃん」

 暗い顔をしていた斎条が口を開いた。その口から出てきたのは、友達の松島を救う言葉ではなく蹴落とす言葉だった。

「今の中本君なら分かるでしょ。本人の前でこんな顔できないよ。もうあんなの相手するの疲れたよ。自分勝手でこっちの話は全く聞かない。自分の意見が絶対に正しいって言い続ける。そんなの誰が喜んで友達になるの」

 話を聞くと、松島は他のクラスの女子にも話しかけておりどの子も斎条と同じ意見だそうだ。

「分かった。これ以上あいつが思うように動いてもらうと、女子全員に迷惑なの」

 伊藤は今までに無い強い口調で言い切った。斎条の顔も真剣なもので、誰もこの意見に反対していない。

「そっか、そんなルールがあったんだな、全然気付かなかったよ」

「あっ、」

 伊藤が思わず声を上げた。ピリピリしていた空気が居心地の悪い空気になった。

「分かったよ。クラスの奴らをそんな空気にさせればいいんだろ。伊藤がほとんどしてくれそうだけど」

「女子はともかく男子は中本君に頼みたいの、あの男子達は一番扱いにくかったの。相手が松島なら簡単でしょ」

「中本君には辛いことかもしれないけど、長年やってきたことだからお願いね」

 斎条に手を合わせられてお願いされた。それは、謝っているようにも見えた。


 六間目、体育は自由時間となった。俺は五十嵐の横に座って、昼休みのことについて話した。

「そうか、やっぱりか」

「知ってたんだな。松島がいじめられること」

「知っていたっていうか分かった。会合のたび伊藤が不機嫌そうに松島の愚痴を言ってたから」

「で、どうしたらいいと思う」

「どうもしなくてもいいと思うぞ。伊藤達の放つ空気は強力だからあいつらでも分かるって」

「それじゃあ困るんだよ。五十嵐君の手助けを頼みたいぐらいなんだから」

 俺の横に座ったのは伊藤と斎条だった。松島は体育館の隅で他の女子と話していた。

「見た感じそんな風には見えないけどな」

「あたり前じゃない。あの子達の演技力は凄いんだから」

 伊藤は誇らしげに言っていた。それを聞いた五十嵐も笑っていた。

「こっちに来られると困るから、仮設の友達か。で、本格的に動くのはいつからだ」

「愛華には今日の放課後からで、明日には私も動くかも」

「凄いことになってるな」

「小学校の時はもっと凄かったぞ。あの一年間は俺も怖かったけど、楽しかったし」

「五十嵐君、何が楽しかったの。ふざけないでよ」

 斎条は笑っている五十嵐に怒鳴りつけた。どうやらそのことに関しては、斎条自信後味が悪かったようだ。

「まー伊藤は十分反省したし俺は別にもういいけど」

「悪かったと思ってるわよ。まさか、あんなことにまでなるなんて思ってもいなかったし」

 それは、小学生の時の小さな思い出だ。

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