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第13話 野望と臨海学校


 誠に勝手ながら一部分削除させていただきました。

 お話の流れにはまったく変更ありません。

 その日を境に珊瑚と僕達はよく一緒にいるようになった。一緒にいるようになったが珊瑚はあまり話さず僕達の質問に答えてくれるようになっただけだ。

 珊瑚は武道全般が得意で全国大会でも優勝したことがあるそうだ。そして、珊瑚の夢。武道家の珊瑚としては意外な夢だった。

「復讐?」

「復讐というよりは野望というのだろうか………どうしても倒したい奴がいてそいつを探しているんだ」

「倒したい奴?名前は」

「龍真」

「龍真……苗字は?」

「それが分からないのだ。そいつの友達がそう呼んでいたから」

「親の仇だったりして」

「………」

「冗談だろ」

「兄を……兄さんに勝つことができたのは龍真だけなんだ」

「兄貴?それと珊瑚と何が関係あるんだ」

「私の夢は兄に勝つこと、兄はもう……だから龍真と一度戦ってみたい」

 珊瑚にとっての目標もしくは壁であったであろう兄。その兄がいない今彼女の目標は兄と同じかそれ以上の実力者の龍真になったということか。もし、珊瑚が龍真に会うことができたらどうするのだろう。一対一の勝負を挑むのだろうか、全力を出して自分の力がどれほどのものか確かめるのだろうか、自分には兄以上の実力があるのか確かめるのだろうか。

「龍真か……」

「知っているのか」

「いや、知らない」

「そうか……」

「五十嵐たちにも聞いてみるよ」

「いい、龍真はこの近くの小学校に通っていると聞いた。時期にある大会に出てくるはずだ」

「大会ねえ……かぶってなかったら応援しにいくよ」

「中本も何かの大会に出るのか」

「ああ、バスケの大会に」

「そうか、なら私も応援に行こう」

 僕は嘘をついた。それも大きな嘘だと今になって後悔している。

咄嗟についたこの嘘は珊瑚を傷つけたくないためについた嘘だが後にもっと彼女を傷つけることになると気付くのはずっと後だが

「そう言えばそろそろ臨海学校だな」

「唐突だないきなりどうした」

「いや、珊瑚は誰の班なのかなって思って」

 小中合同で行われる行事。小学生の面倒を中学生が主体で見るという伝統行事だ。

 臨海学校でやるイベントは色々あるが全て班で行うものだ。班と言うのは中学生一人に対して小学生五人の計六人となっている。ちなみに小学四五六年生が参加することになっていて僕は今年で二回目だ。

「確か……赤井虎之耶だったはずだ」

「キャプテンなら僕達と一緒だな」

「そうか……」

 珊瑚は表情を変えていないが僕には薄っすらと微笑んでいるように見えた。

「中本たちと一緒なら楽しみだな」


 今僕達は臨海学校の目的地『北斗七星』を目指してバスに乗っている。

「ハローうら若き乙女達と野郎共、生徒会長の赤井虎之耶だ。乙女達は『先輩』野郎共は『生徒会長様』と呼べ。臨海学校の三日間、おもっいきり楽しもうじゃないか。ただし、いいか野郎共俺に迷惑をかけるなよ」

 キャプテンが挨拶をしている。あんな人だけどしっかりと生徒会長の仕事をしているようだ。

「コノちゃんマイク貸せ」

 狭い通路を走ってくる女の子がいる。補助席を飛び越えキャプテンのマイクを奪い取った少女はかりんだった。

「いつもあちきは縛られ続けていた。しかし、あちきは今日から三日間の自由を得た。教師の暴力から解放されたあちきはここに臨海学校開催の花火を上げよう」

 彼女がリュックから出してきたのは本物の二尺玉の打ち上げ花火だ。そして、右手にはジッポが……

 彼女の周りの生徒は一斉に後方へ逃げた。バスは今高速道路を走行中。逃げ場を完全に失った僕達は彼女にわずかでも常識があることを願った。

「点火!」

 無駄だった。

「馬鹿かお前は、バスごと吹っ飛ばすきか」

「あう、なにをするコノちゃん。返せ、聖火を返せ。あちきはオリンピックをしたいんだ。聖火を次にまわすんだ」

「なにが聖火だ。それにお前リュックの中花火だけかよ何も入ってないじゃないか」

「何を言っているコノちゃん。ほらバナナならあるぞ」

 ハイソックスから取り出したバナナをキャプテンの顔に突きつけていた。バナナは見事につぶれキャプテンのバナナまみれの顔はだんだん変わり始めた。

「おう、コノちゃん美味しそうな顔になったな」

 キャプテンが切れた。いつもふざけている人だが怒る時は本気で怒鳴ってくれる人だけど決して手は上げない。特に女性には怒鳴っている所すら見たことなかった。そんなキャプテンが彼女の頭を拳で殴った。

「あぅぅ、なにをする。暴力反対、はわ、もしかしてコノちゃん教師軍の回し者か」

「うるさい、副会長の面倒を何で俺が見なきゃいけないんだって、おい聖弥さっさと連れてけ」

「はいはい分かりましたよ」

 南海堂聖弥、五十嵐に匹敵する天才児。僕はあまり知らないが五十嵐の友達らしい。サッカーが上手くて女子には人気が高いと伊藤が言っていた。しかし、裏では五十嵐とつるんで悪さを働いているそうだ。伊藤の情報によると二人ともう一人、赤井龍真を含めた三人でテストの答えをばら撒いたり学校中の机を校庭に並べたりと他校ではやりたい放題らしい。

 赤井龍真、そう、キャプテンの弟が珊瑚の探している奴なのだ。だが、今の龍真は珊瑚の決闘を受け入れる訳がない。それ以前に龍真にあった珊瑚は勝負を挑むかどうかも危うい。龍真が同じ学校でなかったことがありがたい。

「セイちん放せ、あちきは会長だぞ会長。えらいんだぞ、あちきを怒らせると世界二十億人のファンが黙ってないぞ」

「そりゃ怖い怖い、でも、このバスの中にはいないみたいだから怖くなーい」

 彼はかりんの扱いを良く知っているようだ。

「それとかりん、会長は俺だ。お前は副だ副。ナンバー2だ」

「コノちゃん興奮しすぎなのら、見ろこの子達の落ち着きを、もはや帰りのバスのようですぐにでも寝そうな顔だぞ」

 僕達五人と通路を挟んで向かい側にいる四人そこに聖弥が加わっての五人も疲れた顔をしていた。

「どうしたシンシンにマコマコ、男の子だろ。もしかしてリバースか?バス内の空気を一気に悪くするあれなのか」

「どうしたユメちんにシオちん、いつもの元気はどこに行った。新人のユカちんが不安がってるぞ。そうだ、マイちん何か芸をやれ」

 向かいに座っていたのはかりんの担当する班の子達だったようだ。その中のユメと呼ばれていること目が合った。

「お互い大変だな」

「そうだな。でもあたいは嫌いじゃないけどな、こういう人達」

 

「皆、この人は荒熊さん北斗七星のオーナーさんだ」

 北斗七星についた僕達の前に現われたのは無精髭を蓄えた身長二メートルを超えている大男だ。大声で笑う馴染みやすいおじさんだ。

「ちなみに四十五歳の一人もんで夜は寂しくてぬいぐるみを抱いて寝るおっちゃんだ」

「おお、かりんちゃんに虎之耶くん今年も楽しみにしてるぞ」

 荒熊さんはかりんの頭をもぎ取る勢いで撫で回していた。

 荒熊さんだは笑顔だが作り笑いだと言うのが丸わかりだ。

「いたたた、ごめんなのらクマちん。ごめんなさいなのら」

「うん、素直が一番だ。さあ、皆テントの設営に行くぞ」

 僕達とかりんの班以外は荒熊さんについて設営場所へ向った。

「コノちゃん、始まったのらよ」

「そうだな。あれから一年長かった」

「あちきは短く感じたのら」

 ふざけていた二人の間に緊迫した空気が流れ始めた。何時にも無い只ならぬ雰囲気に僕達十人は二人をただ見ていることしかできなかった。

「今年こそは勝たせてもらうからな」

「そうはいかないのら。最後の臨海学校もあちきの勝ちが約束されているのら」

「今年こそは……今年こそは……」

 キャプテンは拳を握り締めて小刻みに震え始めた。そして、拳を高らかに掲げて叫んだ。

「今年こそはお前に『お兄ちゃん』と呼ばせてやる」


…………はい?


「そんなのは嫌なのら。今年もあちきは『コノちゃん』と呼んでやるのら」

 かりんも負けじとキャプテンを指さした。

「ちょ、何ですかキャプテン今のは」

「はあ?何がって勝負に決まってるだろ」

「勝負?」

「そう、あちきが勝ったら『コノちゃん』と呼んでいい」

「俺が勝ったら『お兄ちゃん』と呼ばせられる」

「何がいいんですかそれが」

「シンシン、分かってないな。いいか、女の子から『お兄ちゃん』と呼ばれるのは特別なんだ。それも血の繋がった妹ではない普通の女の子にだ。これほど男を駆り立てるものは無いだろ」

 いや、そんな熱く語られても

「別にいいじゃないですかちゃん付けでも、『このやくん』より『コノちゃん』の方が仲良さそうに聞こえますよ」

「馬鹿言え、コノちゃんなんて女の子みたいじゃないか。それに、一度お兄ちゃんと呼ばれたい。いや、呼ばせたい」

「第一、キャプテンには弟がいるじゃないですか」

 しまった。珊瑚に気づかれる。

「はあ?シンシン。男に兄と呼ばれて何が嬉しい」

 よかった。キャプテンが馬鹿で

「は、もしかしてシンちんはそっちの人。幼い男の子が好きで好きでたまらない異端児」

「笹山かりん先輩、本気で殴ってやりましょうか」

「とにかく、俺の野望のためにシンシン手伝ってもらうぞ。そのために選りすぐりのメンバーを選んだんだからな」

「ふん、それならあちきだって負けてないのら。あちきに少し足りない頭脳をカバーすべく南海堂聖弥を筆頭に癒しとまとめ役の早瀬舞。彼女の身体能力を補うべく新たに加えた新人の椎名由香里。そして、あちき直伝で教え込んだ最強の双璧、策戦担当の東詩音と戦闘担当の神原夢だ。どうだ参ったか」

「なにが少し足りない頭脳だ空っぽのくせに、それに、いくら聖弥でもこの完璧な頭脳を持つ俺に五十嵐誠が付いたら太刀打ちできまい。さらに、椎名由香里ちゃん対策なら考えてある」

「なっ、なんだと!」

「こっちには伊藤未来ちゃんがいる。いくら椎名でも伊藤には歯向かえまい」

「くそ、だがこっちにはまだシオちんとユメちんがいるのら」

「だからなんだ。こっちは柔道部を全滅させた瑠璃川珊瑚ちゃんだ。さらに、身体能力なら俺に並ぶシンシンがいる。策戦など俺達の前では無力」

「くっ、体力馬鹿が……だが、こっちには運動部全員のアイドルマイちんがいる」

「確かに早瀬ちゃんは強力だ。だが、こっちにも小学校のアイドル斎条愛華ちゃんがいる」

「ふ、コノちゃん良いメンバーを選んだね」

「そっちこそ、今年は楽しくなりそうだ」

「はっははははは」

「中本君、早く行こうよ」

 斎条に呼ばれた。行かなきゃ。

「ああ、今行く」

「あははははははははは」

「はははははははははは」

 二人を置いて僕達十人は設営所へと向った。


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