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第10話 仮面の転校生

「電車行っちゃったね」

「そうだな」

「次は……二時間後だね」

「そうだな」

 高校を入学して二週間が過ぎた。たった二週間しか経っていないが後悔している。有名私立校だからという単純な理由で選んだ自分が悪いのだが入学してから悪いことしか起きていない。

 高校からの新しいクラスメイトを期待していたが五十嵐と斎条と伊藤と友美ぐらいとしか話さない。昔みたく輪を広げればいいのだが今のクラスメイトなら別に友達の輪にいなくてもいいような奴が多い。文句を言うつもりは無いが事実なのだ。クラスメイトの特徴は勉強をしているか寝ているか携帯をいじっているかのどれかで自分の世界に引きこもっている奴らしかいないのだ。演劇で言うと台詞のない村人から最悪な奴は木や岩並の奴だ。

 それから、一番前に座っているからという理由で学級委員長に選ばれた。そのせいで色々と仕事をさせられるようになったのだ。委員長だからって黒板消しをすべて任せるのはどうかと思う。

 そして、最も後悔しているのは学校のある場所だ。写真では綺麗で近代的な建物だったから安心していたが、山奥にあるとは想像できなかった。そのせいで通学は電車となった。それもラッシュを逃すと待ち時間が半端ではない。

「もう真っ暗だね」

「そうだな」

 ただいまの時刻は夜の九時。何故こんな時間まで学校にいるのかというと、


 委員長だからだ。


 てな分けで、僕はもう一人の委員長である友美と一緒に電車を待っているところだ。

「どうして返事が『そうだな』だけなの」

「たく、出会って二週間しか経ってないのにお互い名前で呼び合っているのを他人が見て変な噂ができてもおかしくないだろ。だから、できるだけ他人の振りしているの」

「何それ、出会ってすぐに名前聞いてきた男の子の台詞とは思えない」

「控えめな子ですよ。っていう猫を被っていた女の子には言われたくない」

「猫被っていてもいいじゃない。今は愛華や未来の前でも被らないようにしてるし」

「そうですか」

 そう言いながらペンキのはげた木製のベンチに座った。友美もくっつくように座った。

「もう少し離れろ」

「えへ、ドキドキする?」

「何が『えへ』だ。演技下手すぎ。せめて手を握って言え」

「手握って欲しいの?」

「ばーか、繋いで欲しい時は目を見て言うって」

「そうですか」

 友美は自動販売機に近づき適当に二本買って缶コーヒーを僕に突き出した。委員の仕事で遅くなった時の暗黙のルールで交互に奢ることになっているのだ。

「演技って言えばなんだけど。五十嵐君に言われたんだけどね。私は猫を被るのが下手だって、で慎也君に教えてもらえって言われたんだけど」

「あー下手だ。クラスの奴らなら十分だが俺達四人には通用しないな」

 缶コーヒーをちびちび飲みながら星空を見るのが最近の楽しみだ。そう思うと年を取ったのかそれとも松島と一緒に歩いた星空が懐かしいのかどちらなのだろうか。

「そうなんだよね。愛華や未来にもすぐばれたし。そういえば、四人って小学生からの付き合いなんだよね」

「そうだが」

「ねえねえ、小学生の頃の四人ってどんな子供だったの」

「…………」

 小学生の頃か。僕達四人、いやもっと沢山の男女を巻き込んで起きた僕達の小さな戦いや事件事故。それがあったせいで僕達の関係はおかしくなった。でも、それがあったから今の僕達があるのかもしれない。

「覚えていないの?」

「いや、しっかりと覚えているよ。そうだな、電車が来るまでの暇つぶしには丁度いいかもな」

 

 五年前…… 僕達が小学五年生だった頃の話だ。

 


 五年生になってすぐにそいつは来た。先生と一緒に入ってきたその子は黒板に難しい漢字をいくつか書いて一言。

「よろしく」

 読めなかった。書かれたのはたぶん名前だと思う。

「なぁ、五十嵐。何て読むんだ」

 前に座っている五十嵐を蹴りながら聞いた。

「瑠璃川珊瑚。それぐらい読めるだろ五年生にもなって」

「読める訳ないだろ。川以外全部同じ漢字に見えるぞ」

「はあ、バスケ馬鹿はこれだから困る。いいか、あれ位の漢字を読めなきゃ中学に入学できないぞ」

「ほ、本当?どうしよう未来。私、川しか読めない」

「大丈夫、私も読めないから。それにいい愛華、五十嵐の言うことの半分は嘘でもう半分は理解不能発言だから」

「失礼な。私五十嵐誠は純粋で素直に生きていますよ」

「よく言うこの前『人の不幸は私の幸せ』とか言ってたくせに」

「……先生、席を替えてもらえないでしょうか」

 僕の横には転校生の瑠璃川珊瑚が立っていた。横の窓際最後尾の席が彼女の席のようだが、僕達四人のテンションが気に入らないようだ。

「ごめんなさいね。辛いでしょうが我慢してもらえますか」

「はあ……」

 瑠璃川は諦めたように座った。それと入れ替わるように五十嵐が手を上げて立ち上がった。

「先生、不詳私五十嵐誠は瑠璃川珊瑚さんが早くクラスに馴染めるように全力をつくしたいと思います」

「よく言った五十嵐。クラスのために三年ぐらい休んでくれ」

「中本君、ナイスツッコミ」

 斎条のgoodにクラスに笑いが起きた。これが僕達のクラス。五十嵐がボケて僕か伊藤がツッコミを入れて斎条が笑ってくれる。それを見て皆が笑って先生も笑う。そんなクラスに新しく入ってきた彼女はどの役をするのだろう。ボケてくれる?ツッコミ?笑ってくれるかな。

「僕、中本慎也よろしく」

 明るく声を掛けた。

それなのに彼女は冷たい目をしていた。

ガラスの仮面をつけているようでまったく表情を変えず綺麗な顔で僕を見ていた。

笑うときっと素敵なんだろうなと思う。

僕と彼女との一番初めの思いでは二人が笑顔で笑っていたらいいなと思っていたのに彼女が言った一言は

「うるさい」


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