第八話
「あぁん、いい感じ。男どもが魔獣をおびき寄せてくれるおかげで私の力が最大限に利用できるわ。にしてもこんなに一度に魔獣が集まるなんて……きっと二人とも、やらしいこと考えてるんだわ。美琴ちゃん、気をつけてね」
「は、ハイ」
「おいマヤ聞こえてんぞ!」
「考えてないから!」
美琴&帷、智樹&マヤの四人で魔獣狩り協定を結び、美琴と智樹の授業が終わり次第、毎日逆世界に集まっていた。
身の危険を感じるほどの轟きとともに雷が落ちてくる。狙いは魔獣だが、大きすぎるその威力は周囲にも影響を及ぼす。
「あぶねぇ!」
「このくらい避けなさいよ」
無論、マヤの力である。この通り、遠距離攻撃はマヤ一人で事足りているから、美琴はどうにもすることがなく暇である。視界の端っこの方から湧き出てきた魔獣を申し訳程度に撃っているだけだった。
一人だけ初心者なので、妥当な采配だと思いたい。
「にしても、このあたりも綺麗になってきたんじゃないかしら? 数が減って効率が悪くなっちゃったわ」
魔獣の正体は、現実世界の人間の心の闇である。誰もが持つであろう妬みや怒り、欲望など。倒したところで、人間はことあるごとにその感情を生むため、魔獣がいなくなる、ということは無いのだが。四人(実質三人か?)で一斉に狩るというのは、とても効果があったようだ。おかげで、確実に魔獣との遭遇率が下がっている。
安全面、という面では申し分なかったが……
「もっと数が欲しいわね」
やるべきことは、できるだけ多くの魔獣を狩ることだ。
「そろそろ隣町にでも行ってみるか?」
「あそこすごく物騒だぜ」
直接魔獣と戦っている帷と智樹が叫んでいる。
「そうなの?」
マヤが頼り気のない男の言葉を、美琴に確認する。
「はい。治安もよくなくて、しかもビルの建つ間隔的に、狭い場所が多いんですよね」
いかがわしい雑居ビルと裏路地だけでできているような印象のある町だ。
身を隠すには適した場所かもしれないが、戦うとなっては動きのとりにくい厄介な場所になるかもしれない。
「うーん、なるほど……狭い場所じゃ、あんまり私の力は役に立てそうにないわねぇ。だけど、それ以外は申し分ない条件じゃなくって? 物騒だなんて、きっと魔獣もわんさかいるに違いないわ。私もちゃんと援護するから……美琴ちゃん、戦ってくれないかしら?」
「が、頑張ってみます」
今、暇を持て余していた美琴とて、戦うことが役割だ。男二人ばかりに戦わせ続けるわけにもいかない。
「うん、なら良かったわ。――次の狩場に行くわよ!」
満足げに微笑み、魔獣と直接戦っている帷と智樹に呼びかける。美琴は、三匹だけ残っていた魔獣と戦う二人をビルの上から援護して、先に走って行ってしまったマヤの後姿を追いかけた。