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第五話

 確かに獣だった。

 黒みがかった逆世界で、姿を認識しにくい毒を連想させる紫色の体。四つ足でゆらりゆらりと前に進むその動作は虎のようであった。

 今にも、牙をむきそうな。


 魔獣が重心を落とした。


「逃げろ、美琴!」


 美琴(みこと)は逃げるまでもなく(とばり)に突き飛ばされたのだったが。


「我、黄昏の帷を上げし者……!」


 帷の声で美琴は我に返った。崩れた体勢を立て直し、「夜に瞬く命を救わん!」右手に光が生まれる。


「その調子だっ」


 美琴が銃を構えた時には、すでに帷が剣を持ち、魔獣を牽制していた。


「美琴、初陣だ。まずはお前が攻撃してみろ!」


「そ、そんな!」


「どうせ近距離じゃ戦わねえんだから撃ってみろ!」


 ごくり、と美琴は唾をのむ。


「……分かった」


 銃を両手で支えて、素人ながらだいたいの照準を合わせる。発砲。


 魔獣が危険を察知して動き出す。


 パン、パンパン。


 当たらないだろうと思い続けざまに発砲。


 魔獣が駆ける。悪意に染まった黒い牙をもって、帷を仕留めんと。


「俺も久しぶりで……腕がなまってるかなぁっ!!」


 真っ向から魔獣と対峙し、剣を引き寄せ、構え、帷からも駆けていく。


「帷!」


「こんなので悲鳴あげてちゃ始まんねぇぜ……っ」


 魔獣の表面を切り裂いた、浅い手応えを感じながら帷は跳躍する。


「さっさと撃ち込め!」


「は、はいっ」


 美琴のめちゃくちゃな発砲と魔獣の軌跡を縫いながら、帷は剣を持って舞う。


「お前の弾一つも当たってねぇぞ!?」


「嘘っ!」


「当てろ!」


「これ以上は無理だよ!」


「当たると思ってやれ!」


「当たらないいいいい!」


 くそっ。毒づきながら、帷は自分の刀が魔獣の胴体に深々と刺さった感触を確かめる。


 俊敏だった魔獣の動きがだんだんと遅くなってきたことに気がつき、帷は先ほどよりも大きく跳躍し、


「ちょっと帷、置いてかないでよ!!」


 戦線離脱した。


「あとは美琴一人でもやれるはずだ。特に強い敵でもない」


 やれ、帷は命令した。


「無理無理無理、無理だってば……えっ、ちょ、」


 帷にならって戦線離脱を試みようとした美琴だったが、己の体に異変を感じる。


「言ったろ、お前(契約者)にとって(生概)の命令は絶対だ」


「体が勝手にーっ!!」


 正面から対峙したくないという思いとは裏腹に、目がしっかりと魔獣を捉える。足が勝手に動き出す。でもそれは魔獣に向かって近づくためでもなく、魔獣から逃げるためでもなく――


 パン、パン、と乾いた銃声がモノクロの街に響き渡る。


「やろうと思えばできるんじゃねぇか」



 中距離用の武器である銃を有効に使うため、一定距離を保つ必要があったからだった。



「でも一人じゃキツいから! 早く助けて!」


 魔獣の体に銃弾を撃ち込みながら美琴が叫ぶ。確かに銃弾だけじゃちょっと厳しいかな、と帷が腰を上げた。


「今いく……」


「その魔獣、もらったわ!」


 突如として響いた謎の声。女だ。


「誰!?」


 そして帷は、その声の持ち主を知っていた。


「おま、マヤ……!」


「ふふん、待たせたわね」


「待ってねぇっ!!」


 美琴の目の前で魔獣がはじけ飛んだ。


 獲物を見失い、美琴は跳躍して帷の隣に降り立った。


 帷の向かい側に対抗するように立っていたのは、ツインテールをした可愛らしい女性だった。ピンクのワンピースを着ている。それもただのワンピースではなく、フリルやリボンをふんだんにあしらわれた、ロリータファッションである。


「あ、あの、こちらの方は……?」


「あら、女の子じゃない。帷くんやっと契約者見つけたんだ。よかったじゃない」


 彼女はマヤと名乗り、初めまして、と笑顔を向けられ、美琴はうっとりする。


杉浦(すぎうら)美琴です。まさか他にも人がいるなんて……」


「騙されるなよ、美琴。そいつ可愛い顔しておいて本当は何歳なんだか……」


「お黙りなさい」


 マヤは帷をきっと睨みつけると、その視線とは逆方向に右腕を出した。


 瞬間、その方向にピカッと稲妻が走った。


「おぉ、こわっ」


 帷が大げさに肩をすくめた。


 雷の落ちた方向を見るが、建物が壊れてたりすることもなく、特に変わったことはない。


「ってか俺らの祝・魔獣遭遇一体目をよくも……」


 美琴の目の前で消えた魔獣は、マヤがやったのだ。


「あら、そうなの? ごめんなさいねえ」


 うふふと笑うマヤの右手には、奇妙なものが握られていた。


 子供向けのおもちゃのような……そう、魔法の杖のような。


 彼女の衣装と同じピンク色をしているが、それはおもちゃのような安っぽさはない。


 細かい装飾が施され、きらきらと光っていた。


 しかしその光には見覚えがあった。


 銀色ではないが、神秘的な光。


 きっとこの杖がマヤの武器なのだ。


 そして先ほどの雷、きっとあれは偶然などではない。


 ということは……?



「改めて紹介しよう。生概のマヤだ。こいつは服装も武器もこんな――な、なんでもない。さっきも目にしただろうが、あれがマヤの力……というか、こいつの武器は『魔法』そのものなんだ」


 えっ、と美琴はマヤを見つめる。


「それって何でもアリなんじゃ」


「そうなんだ! チートもはなはだしいっ!」


「あら、でも一応使い方があるんだけど。あなたたちの刀は近距離、銃は中距離。まぁ、この子はどっちもいけるんだけど、やっぱり一番うまく使えるのは遠距離なの。だかあらまあ、意外と万能ではないのよね」


 そう言いながらマヤは自身のステッキをうっとりと眺めていた。


 服装といい武器といい、こういうものが彼女の趣味らしかった。


「マヤ、終わったのか?」


 マヤと帷の立っているビルの、さらにその向こうから、誰かが叫んだ。


 今度は若い男の声だ。


「ええ、楽勝よ」


「人の獲物を横取りしておいてそれかよ」


「あら、すぐに仕留められないあなたが悪いんだわ。あっ、美琴ちゃんに言ってるわけじゃないからね」


 仲がいいのか、悪いのか。


 険悪ではないようだが、口げんかができるくらいには帷とマヤの付き合いは短くないらしい。


「マヤ、誰と話してるんだ? ……その声、まさか」


 先ほどの声の主だった。


 彼は誰も気づかないうちに帷の背後に立っていた。


 淡い月光のような光を放つ剣を持って。


「帷!」


 帷の身を案じて叫んだ美琴を、マヤが「大丈夫だから」となだめる。


「でも……」


 男が帷を馬鹿にするように叫んだ。


「懲りないな。こんなところで油を売ってないで、契約者さがしでもしたらどうだ?」


「生憎間に合ったところだよっ!」


 背後から自身に斬りかかってきた剣を、帷は日本刀で受け止める。


 二人は斬りあっているのだ。相手に気づいた瞬間斬りかかってくるなんて、まともな人間じゃない。


 もっともマヤは斬りあう二人をどこかしら楽しそうに見物しているが。



 相手は美琴からは少し遠くて、ただでさえ暗いこの世界では、顔が認識しづらかった。


「ふん、貴様に一体どんな契約者が決まったのか、見物だ――」


 いやに高圧的な喋り方。その声もどこかで聞いたことのあるような、ないような。


 二人が肉薄して、それぞれの刃から漏れ出る淡い光にお互いの顔が照らされ……




「智樹!?」


 そう、それは美琴が今まで何百回、何千回とみてきた幼馴染の顔だった。


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