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第十三話

 風が吹いた。体を持っていかれそうになる、強い風だ。同時に、黒い影が視界の横をかすめた。


 美琴から見えたのは、大きな黒い影が途中で二つに分かれ、片方が空を飛び、もう片方が魔獣の上で動きを止めたことだけだった。

 え、という思考を停止した声が、他からも聞こえた気がした。


 魔獣の頭頂部がはじけ飛んだ。

 次に、右側面、左側面、と、交互に魔獣の体積が減っていく。よく目を凝らせば、それは一人の少女が体を高速回転させながら宙を舞う姿……。両手に大きな剣を握っている。体ごとそれを回転させ、魔獣に突っ込んでいる。危ない、と心が叫んだが、少女が近づいた場所は、何ものも形を残していない。

 少女が着地した。背後で、魔獣の形が崩れた。泥のかたまりのようだったものが、ただの液体へ変わる。地面に体液だったものが流れ、徐々にその色も消えていく――倒したのだ。


 圧倒的な攻撃力。少女の動きを目で追うだけで精いっぱいだった。

先ほどまで苦戦していたはずの魔獣が瞬時に倒され、四人はまだ現状を把握しきれないでいた。

「コンチュエ!」

 少女が空に向かって叫んだ。名前なのか、掛け声なのか、何にしてもかなり違和感を覚える発音だった。まるで他の国の言葉のような――

 突然現れた少女の上に影が落ちた。


「空を……飛んでる!?」


 影の正体は一人の青年で――その背中にはやした翼で、空中に浮かんでいた。

 美琴は、先ほど別れた黒い影のもう一つの正体はこれだったのかと認識するのと同時に、その光景を受け止めきれずにいた。人が空を飛ぶ、という光景も目を疑うが、その翼が普通に想像できる天使の羽のようなものですらないのだ。

 翼を広げた青年の表面積は、人のおよそ三倍。おそろしく大きな翼で、妙な光沢がある。翼の先のほうは橙色。茶色の羽もあれば、かすかな光を浴びて、青に変わったり緑に変わったりする部分もある。その美しさに目を奪われている間に、青年も地上に降り立った。

「フーティエ! 大丈夫だったかい?」


 青年は同じように聞きなれない発音で呼びかけ、少女に抱き付いた。その瞬間、ぶわっと青年の影が大きくなった。


「孔雀……!」


 先ほどの地味な翼ではない。青と緑にきらめく羽と、独特の目玉模様。その美しさと存在感に圧倒される。


「大丈夫よ。それよりコンチュエこそ休んで頂戴。あなたの翼がないと……」

 青年を心配するそぶりを見せた少女が、はっと息を止めた。その目線の先には……

(とばり)!」

 抜き身の刀をぶら下げた帷と少女が見つめ合っていた。

「何者だ」

 帷が刀をちらつかせた。

 二人の距離はかなり開いているが、それでも視線は逸らさない。火花が飛び散るかのような、鋭い視線と緊張感。

「立ち去れ」

 帷が静かに言葉を放った。先ほどの戦闘を見てしまったあとでは、仲間とは呼べない以上警戒せざるを得ない。


「あなたたちのほうこそ立ち去れば?」

 少女の顔がゆがんで、絶叫した。

「ここがあなたたちの場所だなんて決まってないでしょ。コンチュエは疲れているの! わたしたちは当分はここから動く気がないわ。あなたたちこそどこかへ行ってよ!」

「まあまあ、フーティエ、落ち着いて……」

「落ち着いていられるわけないでしょう! 自分たちの縄張り意識だとか、ばかみたい! わたしより弱いくせに!」


 帷とマヤの頭で、カチンと音が鳴ったような気がした。


「それはフーティエが強すぎるからだよ……」

 もうっ! とフーティエと呼ばれる少女は息を荒げた。

「そんなこと、どうでもいいの! わたしより弱いやつが悪いのよ! もう行きましょうよ。なんならこんな街、放っておいたっていいのに!」

「そんなわけにはいかないよ。あんな魔獣を倒そうだなんて、危険だよ……」


「おい、待て!」

 その場をあとにしようとする二人組を、帷は引き留めようとした。

 

「わたしに勝てると思っているの?」

 フーティエが振り返り、冷たい視線が突き刺さる。


「その男、疲れてるんだろう? ……なら!」

 帷が孔雀の男・コンチュエめがけて飛びかかった。攻撃するつもりだ。

「っ、やめなさいっ!」

 フーティエが前に出てかばう。二本の剣を交差させて、帷の日本刀を防いでいる。

「……っ、ぐぅっ!」

 見た目では日本刀がかなり細く、力比べでは簡単に負けてしまいそうなのだが、どうやら押しているのは帷のようだ。


「護るものっていうのは、弱みになるよなぁ……っ!」

 フーティエを力で押し切り、バランスを崩した彼女をさらに押しのける。その後ろには驚いた顔をしたコンチュエがいて。


「コンチュエ!」

「帷、だめっ!」


 悲鳴を残して、帷が青年に斬り込んだ。コンチュエの胸から腹部に一直線の傷ができ、ぱっと赤い血が飛び散った。


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