episode2『Hermit of the gunsmith』
桔梗の面倒を見きれなかったのは僕の責任だ
だからどんなにつらい事実が彼を待っているとしても僕は彼に手をさしのべることすらできない
彼はきっと僕を責めるだろう
許してくれとは言わない
許されてはいけないんだ……
「ほら、これでよし!」
ミオリはうんうんと頷くと、椛の肩を叩いた。
外出する際、椛の耳やしっぽはかなり目立つ。
なので椛は変装のためにミオリの服を借りていたのだが、その着替えにかなり時間がかかった。
椛に合う服が少ないのだ。
「むぅ、私にももうちょっと胸があれば……」
「とか言いながら私の胸を触ろうとしないで下さい!」
コンコン
「おいミオリ、そろそろ出発したいんだが」
「わぁかってるわよ、ちょっと黙ってなさい!」
ドアを蹴りながらケイを怒鳴るミオリ。
その向こう側でケイはやれやれと首を振った。
手元の時計は10時を少しまわったところ、出発するには少し遅いくらいだ。
「お、お待たせしました……」
やがてカチャリとドアが開くと、ようやく着替えが終わった椛が出て来た。
白いパーカーに黒のミニスカート、しっぽと帽子はパーカーの中に隠したらしい。
「なかなか似合ってるじゃないか椛」
「あったりまえでしょ? 誰がコーディネートしたと思ってるのよ!」
偉そうに胸を張るミオリ。
だが既にケイと椛は出かけた後だった。
「あ、あれ? ちょっと?」
「ケイさん、ここは?」
「闇市だ」
「やみいち?」
「ああ、ここならお前の服も手に入るはずだ」
ケイと椛はとある建物の階段を降りて、隠れるように作られた地下の商業施設に来た。
闇市とは言うものの、ここで取引されるのは食料品や衣料品なんかの生活用品がほとんどだ。
この街のどんな店よりも安く手に入るため、常に利用客がたえない。
「ああそうだ、言い忘れてたけど一応気をつけろよ? 中には怖ーい連中もいるから」
「怖ーい連中?」
ケイは黙って頷くと、目線である一角を示す。
そこにはいかにもガラの悪そうな男が数人たむろしていた。
「なるほど……」
「まあ近づかなければ大丈夫だ。ここでは手出し出来ないからな」
「え、なんでですか?」
「入口のところに無愛想な見張りがいただろ」
「んー……見張り」
椛は必死に記憶の糸をたぐる。
「確かここに入る時に手を振ってましたね」
「あれは合図なんだ。ここに入った人間は全員顔とその身分を押さえられる。で、ここで騒ぎを起こすと次から入れないだけじゃなく、シビルガーディアンの御用になるって寸法だ」
「し、しびるがーでぃあん……?」
「治安維持のために作られた組織だ。ただしちょっとやり過ぎているがな」
次々と飛び出る聞き覚えのない単語に理解が追いつかない椛。
ケイもその様子を見て説明はここまでにすると、椛の手を引いて人混みの中へと入って行った。
今日の買い物は椛の外出用の服と、その際必要になる証明書だ。
「さてと、ここが服屋だ。あいつがいるはずなんだが……」
ケイは店の外から中を見回す。
すると、ケイの姿に気付いた一人の店員が走ってきた。
「ごめんなさい待たせちゃって。あのお客、すっごくわがままなの」
「ミオリからの連絡は?」
「もちろん、コスプレ衣装の調達と一緒に承ってますよ!」
突起のついた帽子をかぶった店員はちょっと傾いていた眼鏡を直す。
「あなたが椛ちゃんね、ミオリから話は聞いてるわ。私はリューファ」
リューファは柔らかい笑顔で椛の手をそっと握った。
「じゃあケイ、少しの間待っててくれる?」
「ああ。終わったら俺のデバイスに連絡よこしてくれ」
「もちろん。じゃあ椛ちゃん、こっちへどうぞ」
「お、お願いします……」
リューファに手を引かれるまま店の中に入る椛を見送ると、ケイはそのまま来た道を引き返した。
「わぉ、椛ちゃん意外とスタイルいいのね。ミオリが気に入るわけだ」
リューファはメジャーをせっせと巻くと、手元のメモに数字を書き留める。
「あの、リューファさん……」
「ああ、リューファでいいよ。みんなからそう呼ばれてるし」
「驚かないんですか?」
「え、何が?」
椛はリューファが持って来た服を試着しつつ気になっていた疑問を投げかけてみる。
「何で私の身体見て驚かないの? しっぽ生えてるし、耳も……」
「ああ、そんなこと? 気にしないよ。だってさ」
笑いながらかぶっていた帽子を取るリューファ。
そこには紛れも無い本物の猫ミミが生えていた。
リューファは嬉しそうにその猫ミミをピクピクと動かす。
「私も外の世界から来たんだもん。獣人ぐらい珍しくもなんともないよ」
「え……あ……」
「あ、私の代わりに椛ちゃんがびっくりしちゃった?」
口をあんぐりと開けたままぽかんとしている椛。
リューファはその顔がおかしかったのか思わず吹き出して笑い出した。
「あははは、椛ちゃん今すごい顔してるよ」
「あ……うう、笑うなぁ!」
「うぐ……うぅ」
全身が痛む。
特に右足の感覚がない。
文は頭の上に乗った氷嚢を取ると、上体を起こして周囲を確認する。
人の気配はない。
「ここは……」
次に自分の身体を調べる。
熱があるのか少し頭が重い。
感覚のなかった右足は何重にも巻かれた包帯で固められている上、吊り上げられていた。
どうやら折れたようだ。
「Did you awake?(目は覚めたか?)」
「!」
驚いた文は痛む首を必死に捻ってドアの方を向く。
そこには白髪の青年が本を読みながら立っていた。
そこまではわかるのだが、今まで耳にしたことのない言葉を喋っているので話の内容がわからない。
「You must rest now.I pluggedthe wound,but it is not perfect.(今は安静にしている必要がある。傷口は塞いだが完全ではない)」
「あなたは……」
通じるかはわからないが一応話し掛けてみる。
すると男は何かに気付いたようなそぶりをすると咳ばらいを一つ。
「Japaneseか、このあたりでは珍しい。もうすぐマスターが来る。それまで安静にしていろ」
突然流暢な日本語を話し始めたことに驚く文。
それだけ言うと男は部屋から出て行った。
やがて外で誰かとしゃべっているらしい声がすると、またドアが開く。
「あなた、紅茶は飲めるかしら?」
かわいらしい金髪の女の子が開いたドアから顔を覗かせている。
日本人とはまた違った人形のような顔立ちをしているが、こちらも言葉は通じそうだ。
紅茶はよく紅魔館で飲んでいるから飲めないことはない。
文がゆっくりと頷くと、女の子は外に出て行った。
ここがどこで、自分はなぜ怪我を負っているのか、そして何より一緒に飛ばされた椛が無事なのか。
気になることはたくさんあるが、動けない今文にはどうすることも出来ない。
とりあえず言葉が通じたことにホッとする一方で、椛のことがどんどん心配になってくる。
(椛……今あなたはどこに?)
「霊夢ー! つまみが切れたぞー!」
「あのねぇ萃香、ここは居酒屋じゃないの。ミスティアの店にでも行けばいいでしょ?」
霊夢は納屋の整理を済ませると、靴も脱がずに縁側に寝そべった。
萃香もつまみをねだり続けるが、ようやく諦めたのかしゃべらなくなった。
「まったく今日も蒸し暑いわね」
「異変だぁー、れいむぅー!」
「そんなわけないでしょ? それにこんな程度で異変なんて……」
毎日が異変だ、と言いかけたところで霊夢は何かの気配を感じ取って顔を上げる。
やがてため息をつくと、近くに転がっていた陰陽玉を草むらの中に投げ込んだ。
「いったぁぁいっ!」
草むらから出て来たのは意外にもはたてだった。
はたては自分に向かって投げつけられた陰陽玉を持って霊夢の前に立つ。
「で、引きこもりのあんたが何でこんなところに?」
「その前に謝りなさいよ! 人にこんなものぶつけといて!」
「ああ、はいはいどうもすいませんでしたー」
「すっごい棒読みだし……まあいいわ」
萃香の存在に気付いて責めるのを諦めると、腰に付けたポシェットからメモを取り出した。
いつもの携帯電話はポシェットの中だ。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだぁ? お前も飲むか?」
「…………。」
「萃香、ちょっと話が進まないでしょ」
霊夢は酔っ払って動かない萃香を押しのけて隣の部屋に移す。
暴れて嫌がる萃香だったが、霊夢が陰陽玉を取り出したのを見て渋々従った。
「じゃあ気を取り直して、聞きたいことって何?」
「文と椛のことよ」
「何も知らないわ。来てすらないし」
霊夢は急須を揺すってお茶がないことを確かめると、だるそうに台所へと引っ込む。
「ちょっと、真面目な話なのよ! 文は昨日の定例会議をすっぽかしたし、椛も文について行ったまま帰って来ないの!」
「ああはいはい、わかったから。とにかく二人を見つけたら連絡するわ」
「投げやりな態度ね……」
「そんなことでいちいち心配してたらハゲるわよ?」
はたては少し不機嫌そうな顔をしたが、いくつか言い残して妖怪の山へ帰って行った。
その様子を遠目に眺めていた霊夢ははたての姿が見えなくなると、急須と湯呑みを片付ける。
隣の部屋からいびきが聞こえる。
どうやら萃香は寝てしまったようだ。
「紫、今なら私一人よ」
「あらら……ばれてたのね」
霊夢が振り返ると、そこには紫が厳しい顔つきで立っていた。
「気付くに決まってるでしょ? 何年あんたの暇つぶしに付き合ってると思ってるのよ」
「そっけないのね霊夢。まあいいわ、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
「天狗のこと、でしょ」
黙って頷く紫。
霊夢も紫の心境を察したのか、洗ったばかりの湯呑みと急須をもう一度用意する。
「あんたが関わるとろくなことがないわね。で、今回は何をやらかしたわけ?」
「悪い、ちょっと用があって遅くなった」
ケイは店の前で待つ椛を見つけると、人をかき分けながら走ってきた。
「遅いですよ! 心配してたんですから」
「まあケイのことだし、どうせまたあの連中でしょ」
「ギクリ」
「ケイ、そういうのは口に出すものじゃないよ」
リューファはため息混じりにポケットから領収書を取り出すとケイに手渡した。
「はい。支払いはコスプレ衣装も一緒だからミオリに言っといたよ」
「ああ、ありがとう」
領収書を丸めると、ケイと椛はリューファに別れを告げてまた人混みの中へと歩いて行く。
リューファの店はすぐに見えなくなった。
「あ、忘れてた。こいつは肌身離さず持っておけよ? この街の住民であることを示す証明書だ」
道中、ケイは椛に一枚のカードを渡す。
この世界に飛ばされた際に要求されたものだ。
「これで自由に文って子を探しに行ける。シビルガーディアンに目を付けられたらこいつを渡すんだ。いいな?」
「は、はい……」
椛はカードの証明書を受け取ると、肩から下げていたかばんの中にしまおうとする。
「ああ、かばんの中はやめといた方がいいぞ? かばんごと盗まれる可能性もあるしな」
「物騒ですね」
「ああ、だからここがある」
みんな外に出たがらないからなと付け加えるケイ。
この街はどうかしている。
研究都市だかなんだか知らないが、住人までモルモット扱いされている上にこの窮屈感。
嫌気がさすなんて次元ははるかに超越している。
「ところでケイさん、来た道は反対ですよ?」
途中で気付いた椛はケイの服の裾を引っ張って知らせる。
「ああ、言ってなかったな。寄りたい場所があるんだよ」
ケイは上着をめくると、腰に提げたからっぽのガンベルトを叩いてみせた。
「この闇市には不定期だけど銃鍛冶[ガンスミス]が来るんだ。預けた銃を返してもらわないとな」
「壊れたんですか?」
「いや、まあ……壊れたっつーか壊されたっつーか」
「あれはお前の不注意だろ? 」
突然割り込む声。
ケイは呆れたように俯き、椛は声の主を探す。
「同時にお前のせいでもあるがな。今までどこ行ってた遼」
「こっちはこっちで色々忙しくてなぁ。警察官の仕事は楽出来ないのさ」
突然目の前に現れた男は耳にかけたインカムを外すと右手の拳銃をホルスターに収めた。
「…………。」
紅魔館前、美鈴の仕事場である正門。
はたてはその惨状を見て思わず固まる。
「んぁ?」
(うわ……目つき悪っ!)
そこには頭にナイフの刺さった美鈴と、その上に座り込んで殺意剥き出しの目で睨んでくる咲夜がいた。
「あ、あの……失礼しましt……」
「あらぁ、どちらへ?」
回れ右して帰ろうとするはたての肩を驚異的な速さで掴む咲夜。
はたてには咲夜の満面の営業スマイルがまさに悪魔のように見えた。
「ひ、ひぃ!」
「ちょっとお尋ねしたいんですけどぉ、お宅の鴉天狗、どちらにいらっしゃるか知りませんかねぇ?」
「待ちなさい咲夜」
はたての首筋にナイフをあてがう咲夜
しかしその手はレミリアに捕まれてすんでのところで止められた。
「ちょっと話が聞きたいのよ。ナイフを下ろしなさい」
「は……はい」
レミリアに睨まれて渋々はたてを離してナイフを足のホルスターにしまう。
解放されたはたては地面にうずくまってガタガタと震える。
「あ……悪魔だ……悪魔……」
「いや、あの、私吸血鬼なんだけど」
「少しは落ち着いた?」
紅魔館内食堂、はたては出された紅茶をちびちびと飲む。
「さて、一応初対面だったわね。私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」
「姫海棠……はたて」
「さて、早速で悪いんだけど射命丸の行方を知らないかしら」
「そ、それは……」
はたては今までの捜査の経過を軽く要約して伝える。
射命丸文そして犬走椛の二人は三日前から行方不明だということ、そのことに関して上がカンカンだということ。
「そう、行方不明」
「何か思い当たる節でも?」
レミリアの含みのある話し方から身を乗り出すはたて。
しかしレミリアは首を横に振り、はたても椅子に座りなおした。
「でもね、嫌な予感がするのよ」
「あなたの能力?」
「そう、正確には能力の応用ね。私の能力には運命を操作する力があるわ」
「で、あなたの能力がさせる嫌な予感ってのは?」
「聞きたい?」
「やめておくわ」
また紅茶を口に運ぶはたて。
外は今にも雨が降りそうなぐらい黒く分厚い雲が広がり、薄暗くなっていた。
部屋の外では妖精メイド達の慌てたような声がしている。
「じゃあそろそろ本題」
レミリアはティーカップを置くと、腕を組んではたてを見据えた。
「これは私個人の見解なんだけどね」
ロッテは紅茶を文に渡しつつ文の怪我について話した。
右足は車に轢かれたせいで骨折、さらに頭を強くうって倒れていたのだ。
「そうでしたか……もしかしたらこの世界に飛ばされた時に」
「飛ばされた?」
文は自分を助けた金髪の女の子、ロッテに今までの経緯を話した。
「なるほど、興味深いわ。だから背中から翼が生えてるのね」
ロッテはと言うと年相応と言うべきか、文の話に聴き入っている。
「だから一刻も早く椛と合流して幻想郷に戻らないと私の新聞記者としての……」
色々と捏造している部分はあるものの、文の説明は的を射ていた。
とにかく早急に椛と再開する必要がある。
「だとしたら急いだ方がいいかもしれないわね」
「なぜです?」
「この世界、いやこの島と限定してもいいかもしれないが必ずしも治安が安定しているわけではない。それにフローターも合わせれば全部で6ヶ所、探すだけでも一苦労だ」
ナハトが横から説明を入れた。
この世界には陸地と呼べる陸地が今文のいる人工島『アンダーグラウンド』のみ。
その他は海面上昇により住めなくなった陸地の代わりに作られた空中都市『フローター』だ。
技術開発専門のジャパンフローター、居住施設のアジアンフローター、観光都市のヨーロッパフローター、食料生産のアフリカンフローター、そして全てを統轄するアメリカンフローター。
どこに飛ばされたかはわからないが、場所によっては非常にやっかいだ。
「ところでそのフローターってものはどれぐらいの大きさなんです?」
「アヤ、外を見て何か気付かない?」
「そういえばまだ昼ですよね、暗くないですか?」
壁かけ時計の針は午後の1時を指している。
なのに外は薄暗く、窓に明かりが灯っている家もある。
「空をご覧なさいな」
文はナハトから松葉杖を受け取ると、痛む首を抑えながら空を見上げた。
「え……」
「見えたかしら。あれが観光都市として作られたヨーロッパフローターよ」
「大きい! あんなものが空に浮いてるんですか!」
あまりのスケールの大きさに驚き、はしゃぐ文。
空一面を覆い隠す巨大なフローター。
それは地球上に住む場所を失った人類が叡智を結集して作り上げた第二の大地だ。
「信じられないでしょ。その幻想郷という世界にはこんな施設あるの?」
「幻想郷にはここまで機械の技術が進歩してませんから。いやぁすごい! そうだ、カメラカメラ……」
「あ、ああ……そのカメラなんだけど……」
「そうだね、これだけでは終われない。終わらせるわけにはいかないんだ」
暗闇の中、一人の影が懐から小さな水晶玉を取り出す。
「さて、あんたの狙いは? それだけ聞いといてあげるわ」
「あれが僕の仕業に見えるのかい? 心外だなぁ、僕にはそんな力は残されてないよ」
「じゃあ……もしかして」
「例のお方の仕業だろうね。おかげで計画が大きく狂った」
「みたいね」
「おやおや、弱ってても一応それぐらいはわかるのか」
「腐っても神様だからね」
「そうだったね……」
水晶を弄んでいた影、天凪椿はその水晶を机の上に置くと立ち上がる。
その様子を床に臥している天袖カンナがじっと見つめていた。
「カンナ、回復しそうかい?」
「だめね」
夏も終わり、カンナの妖力は弱る一方だった。
四神の存在自体が消え行く今、未だに四神の力に縛られているカンナもまたその影響を受けている。
「黄龍様が眠ってからもう何百年経ったのかしら。そろそろ私も消えるかもしれないわね……」
「何バカなこと言ってるんだよ。香澄姉も桔梗も見つかったんだ、あと少しなんだぞ!」
「あら、いつの間にかずいぶんと偉そうな物言いをするようになったのね」
カンナは少し嬉しそうに口元をほころばせた。
「そうだろ! あの二人との再会を一番楽しみにしていたのはお前じゃないか!」
「そうね。確かに私はあの二人にもう一度会いたいと、そう願ったわ。でも、もう無理なのよ……」
そっとめくられた毛布。
カンナの足から無数の紫色に輝く水晶が突き出していた。
「劣化現象! 隠していたのか!」
「そう、これが私は会えないと言った理由。先はそう長くないわ」
「一体いつから……」
「あんたがいなくなってすぐよ。この足じゃもう歩けない」
「カンナ」
「じゃあ私は寝るから。夏が終わると眠たくなるのよ」
「…………わかった」
「そんな顔しないでよ。私はあんたが桔梗と香澄姉を連れてきてくれることに賭けてここで待ってるから」
「……。」
弱っているにも関わらず無理に笑って見せようとするカンナ。
椿は起こさないようにそっと布団をかけ直すと小屋の外に出た。




