その1
オータムの里の朝。
それまで布団で眠りこけていたハヤトは、突如として上体を起きあがらせた。
彼はその場を転がるようにして布団を脱出する。
直後、布団に何本かのクナイが突き刺さった。
「……あっぶね」
ハヤトが息をついたのもつかの間、彼の脚にロープのようなものが絡まり、彼の体は天井に宙づりにされた。
「うおあっ!?」
「あらあら、油断しちゃだめよ。今のをよけても、まだ仕掛けがあったのに」
笑顔のフローラが襖を開けて出てきた。
ハヤトは逆さまのまま、頭をかいた。
「……あの、フローラさん。これって何の意味があるんですか」
「自覚がないのかもしれないけれど……ハヤト、あなたは危機判断が遅いのよ。一体どんな環境で育ってきたのかしら?」
ズバズバと言われ、さすがのハヤトも傷ついた。しかし事実なのだろう。モンスターなどいないあの世界で生きてきたのだ、当然そういった危機認識能力は低い。
「ともかく、それをほどいたら外に出なさい。昨日と同じところよ」
ハヤトはすぐにナイフで縄を切り、中庭へと出る。
すでにロバートとマヤ、ルーの三人が、輪を作るようにして“魔力”を錬っていた。
彼らを指導していたディアナが声をかける。
「おはよう、ハヤトさん。今日も、おんばあ様とマンツーマン?」
「ええ、そうみたいです」
ディアナはにやりと笑う。
「色男」
「そ、そういう事ではないと思いますけど」
「おんばあが直々にけいこをつけるなんて、里でも滅多にないことよ。きついことばっかり言ってるけど、それだけあなたに期待しているってことなのかもね」
“魔力”を練るロバートが手をふるわせはじめた。
「ディアナさん、話に夢中になるのもいいんですけど、ちょっと、長くないすか。そろそろキツいんですけど」
「あっ、ゴメンゴメン。じゃあマヤちゃんとルーちゃんは休憩。ロバートくんは五分追加」
「なんでそうなるんすか!?」
ハヤトはその様子に笑いつつも、視線をうつす。
ミランダがひとり、必死の形相でぶんぶん槍を振っていた。
ロバートがキツそうな表情を浮かべながら言った。
「ハヤト君、ミランダの奴は放っておけ。あいつは“魔力”とかが嫌いだし、時々ああなるんだ。今は何を言っても無駄だ」
ディアナが彼の額にでこぴんを食らわせた。
「ここでは“波動”って呼ぶのよ、ロバートくん。間違えたからまた五分追加ね」
「な、なんでだよっ!? 俺はマヤちゃんやルーみたいに“魔力”の絶対量がそう多くないんだぜ!? 死ぬって! 死んじまう!」
「ばかねえ、だからやるのよ」
ハヤトはディアナに礼をして、屋敷の外へと向かう。