その8
ハヤトを倒して屋敷へと侵入したアンバーは、迷うことなく松の廊下を駆けていき、ある部屋へとたどり着く。
そこには、老婆が一人座っていた。
「おかえりなさい、アンバー」
里の長・フローラは笑顔で言った。
アンバーは、双剣を抜く。
「そこをどけ」
「あなたのためだったら、そうしてあげたいところだけれどね。どうして、こんなことをするの」
「あなたには関係ない」
「あるわよ」
老婆は、笑顔を崩さない。
「だってあなたは、私のかわいい娘だもの」
それを聞いて、アンバーの瞳が揺れる。彼女は続けて何かを言いかけたが、それをふり切るようにして、双剣を構えた。
「どいてくれっ、おんばあ! 私には精霊の力が必要なんだ!」
フローラはゆっくり頷くと、一振りの刀を取り出した。
アンバーは驚愕の表情を浮かべ、その場を後ずさりした。
精霊のご神刀であった。
「最初からそうお言い。何をするつもりか知らんがね、あんたがこれを使って悪さをするだなんて、私は思わない。何か理由があるんだろう。だったら使いなさい。でもね、全部終わったら、きちんと返すんだよ」
アンバーはそれを見て、明らかに動揺していた。彼女は少し息を荒げながら、悲しげに言った。
「どうして、あなたはいつもそうやって……」
「いいのよ。五年前に蒼き“波動”の大きな揺らぎが起こった時から、何かが変わったことだけは、私でもわかっているからね。それが関係しているんだろう?」
アンバーは答えない、というよりも答えられないように見えた。彼女はやがて、ゆっくりとご神刀を拾いあげ、背を向けた。
その表情は、もう、耐えられないといった風に、せっぱ詰まっていた。
「いずれ……」
彼女は、姿を消した。
「おんばあ様! ご無事ですか!」
すぐにロックが現れた。フローラは畳を見つめていた。
「何を悩んでいるのだか……」