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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第12話「秋の忍び里」
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その7

 アンバーは何も言わず、ロックをじろりと見つめた。

 ロックは苛ついた様子で、もう一度言った。


「アンバー、話せ。一体、何があったのだ」


 アンバーは返答せず、彼の姿をただ見ていた。

 うつろげに、幻か何かを見ているかのように、ただ見ていた。


「アンバーっ!」


 ロックが叫ぶ。アンバーはようやく、ぎりと、奥歯をかんでから口を開いた。


「どけ……!」


 二人の姿が消える。同時に、空中で二人の斬撃が重なり合う。


「『火遁』……」


 ロックが至近距離で術に入るのを見て、アンバーは彼を蹴りとばす。

 だがロックは、空中を踏み、再び彼女の目の前にとんだ。


「『獅子炎牙ししえんが』!」 


 ロックの掌から、獅子を象った炎が現れる。アンバーはそれを双剣で受け止め、小さく言った。


「『凍れ』」


 獅子が、一瞬にして氷像となった。ロックはすぐに刀で追撃したが、アンバーの姿はそこにはなく、空を切る形になる。


「ちっ!」


 ロックはそのまま空中で翻り、背後に手裏剣を投げる。アンバーはそれを剣で弾き飛ばし、ロックの額に手をつけた。


「『風遁・羅刹陣らせつじん』!」


 爆発的な“魔力”の風が起こり、ロックの体が、きりもみ回転しながら竹薮に吹き飛ばされていった。着地したアンバーは、そのまま屋敷へと走り出そうとしたが、すぐに足を止めた。


「進ませるわけにはいかん」


 飛ばされたはずのロックが、そこに立っていた。アンバーは双剣をないで、彼に襲いかかる。

 その場を飛び跳ねたロックは、空を踏み、斬撃を浴びせる。アンバーはそれを片方の剣でパリーし、もう片方で突く。


 刀と剣の応酬が続く。やがてアンバーがロックの刀に足をかけ、体を跳ねさせた。

 二人は空中を駆けながら、武器を打ち合わせ続けた。


「あに様、あね様! おやめください!」


 中庭に出たシェリルが叫ぶ。しかし、二人は戦いをやめない。

 続けて勇者一行も現れた。


「なぜ戦うのです! どうして……どうしてあなたたちが!」


 ロバートが、驚いた様子で宙をにらむ。


「なんなんだよ、あいつら……! 二人ともバケモンだ。それに、あの女は……」


 ハヤトも、思わず言った。


「西や……いや、アンバーさん!?」


 空中で戦うアンバーが、その声に反応した。

 一瞬の硬直。ロックはそれを見逃さなかった。


「『風遁・羅刹陣』!」


 アンバーが、ものすごい勢いで地上に叩きつけられた。

 控えていた数人の忍たちが、それを取り囲む。


 だが、アンバーは“魔力”を大きく展開して衝撃波を起こし、全員を吹き飛ばした。

 ハヤトとアンバーの目が合う。


「やっぱり……!」


 間違いない。アンバー・メイリッジ。ザイドに向かう途中で魔王軍と交戦した際に現れた、ハヤトの師である西山楓そっくりの女。

 彼女が使っていた技は、ロックのそれとほとんど同じだった。

 彼女もまた、ここの人間だったのだ。


「あね様!」


 シェリルが騒いだが、アンバーは彼女のことを完全に無視して、ハヤトを見た。途中、空中にいたロックが攻撃を仕掛けたが、障壁のようなものが現れ、彼の体を拘束した。


「勇者ハヤト……」

「アンバーさん、一体どうして、こんな……?」

「悪いが急いでいる。君たちに構っている暇はない」


 「へん!」とミランダが槍を取り出した。


「通れるもんなら、通ってみな。アタシらは秋の精霊と契約しなきゃならないんだ。ここであんたをぶっちめてでも――」


 その時、途中でアンバーの姿が消え、背後からどごん、と何かが壊れる音が響く。

 ハヤトが振り返った時には、ミランダとシェリルのふたりが壁に叩きつけられて倒れていた。アンバーはそれを一瞥してから、彼らのほうに振り返った。


 ハヤトはぞくりとした。

 攻撃が、まったく見えなかった。


「邪魔だ。弱者に用はない」


 全員が身構えたが、アンバーはまたしても姿を消すと、ロバートを地面にたたきつけ、マヤとルーに手刀を浴びせ、コリンを蹴り飛ばす。

 ハヤトが剣を抜いた頃には、六人が戦闘不能になっていた。


「う……うおおおおっ!」


 ハヤトは叫び、「蒼きつるぎ」の力を呼び出そうと試みる。

 が、目の前に現れたアンバーが彼の手を蹴り上げ、腹に肘打を食らわせた。


「判断が遅い」


 ハヤトは、アンバーのその言葉を最後に、意識を失った。

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