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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第12話「秋の忍び里」
93/212

その5

「あらあら、まあまあ」


 広々とした畳の部屋に招かれた一行を出迎えたのは、一人の優しそうな老婆だった。ほかの忍たちのような黒装束は着ておらず、赤い和服を身にまとっている。


 シェリルはその場に正座し、静かに礼をする。


「ご無沙汰しております、おんばあ様」

「お顔を上げなさいな、シェリル。久しぶりなのですから、あなたの成長した顔をよく見せてちょうだいな」


 「おんばあ様」と呼ばれた老婆は、座布団に腰掛けた。シェリルは緊張した面もちで、言われた通りにした。

 老婆は笑顔になり、後ろに腰掛けるハヤトたちを見た。


「あなたたちが『蒼きつるぎ』の勇者ご一行……ですか」


 ハヤトはその場に正座して、シェリルと同じように頭を下げる。


「ハヤト・スナップと申します」

「まあ、流儀をご存じのようで。わたしはここ、秋の里長をつとめています、フローラ・ベルといいます」


 どうして、忍者なのに英語名ばっかりなのだ。

 いい加減ハヤトは突っ込みたかったが、それがこの世界での忍者というものなのだろう。


 シェリルとハヤトは、これまでの出来事について簡単にフローラに説明した。


「つまりは、聖域に行くために秋の精霊様の契約を……ということですね」

「はい」

「ではハヤトさん、まずあなたの『蒼きつるぎ』を見せてちょうだい」


 ハヤトはそう来ると思っていましたとばかりに立ち上がり、背中から剣を抜く。

 気持ちを集中させると、すぐさま剣は「蒼きつるぎ」に変化した。

 ハヤトはこれまでの旅路を経て、ようやくこれだけはマスターしていた。


「どうでしょう」


 ハヤトがたずねる。フローラは、何かを確認するかのように、彼の体じゅうを見回し、剣を納めるように告げた。


「ソルテスと同じ蒼き“波動”……。かなり未熟だけれど、不思議なものね。どうやら間違いなさそうだ」


 「だったら」と契約をせかそうとするハヤトに向けて、フローラは小さく手で制した。


「間違いはないけれど……今、秋の精霊様とあなた方をお会いさせることは、できません」

「な、なぜですか?」

「貴様が知る必要はない」


 後ろから、声がした。

 見ると、先ほどの眼帯をつけた男だった。

 シェリルが立ち上がった。


「あに様!」

「おんばあ様、なぜこのような国外の者らを里に入れたのですか。神器を狙っているのかもしれぬのですよ」

「落ち着きなさい、ロック。シェリルが連れてきた客人なのですよ」

「こやつは忍術の才能なくして、奉公に出された女です!」


「――おだまりや」


 突如として、フローラの声色が変わった。その場にいる全員がぞくりとするような、小さいが心に突き刺さるような声だった。


「その代わりシェリルには、外国忍術『まほう』の才能があった。だからこそ春に奉公に出した。これを貴様が口を挟めるような問題だと思うか」


 眼帯の男・ロックもこれにはひるんだようで、その場に膝をついて座った。


「……失礼をば。ご報告です。里山のふもとに安置されていた、鏡の神器が奪われました。賊と交戦した者らによると、今回も勾玉の時と同一人物のようです。……秋の精霊を宿す、最後の神器であるご神刀があるここに来るのも、時間の問題かと思われます」


 フローラは大きく息をついた。


「やはり……あの子なのかい」


 ロックは、何も答えない。だが、フローラはそれだけで察したようだった。


「ロックや、無理はせずともよい。おまえに責任はない。だから休みなさい」

「見張りの数と罠を増やします。きゃつは必ず、拙者が始末します」


 ロックは即答した。

 それまで黙っていたシェリルが、口を開く。


「神器を狙っているのは……あね様、なのですね」

「シェリル、おまえは知らずともよい……早く、去るのだ」

「で、でも! あに様とあね様は……!」


 シェリルが言い掛けたその時、屋敷が大きな爆発音とともに振動した。

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