その4
オータムの里は、大きな長屋門に囲われていた。
一行がバドルを降りて近づくと、門の前にいた黒装束の男たちが警戒心を露わにして腰に下げた刀の柄を取った。
「何奴だ」
ハヤトが事情を説明しようとする前に、シェリルが地面に手をついて礼をした。
「秋の忍が一人、シェリル・クレインでございます。おんばあ様にお目にかかりたく、本日ここに馳せ参じました」
彼女の雰囲気は、これまでと明らかに変わっていた。
堂々としているが、同時に、ひどくおびえているようにも見えた。
男たちはそれを見て、警戒を解いたようだった。
「春の都に奉公へ出た、クレインの娘っ子か。何用だ」
「秋の精霊様の契約です。この者たちは『蒼きつるぎ』の勇者ハヤト・スナップとその一行でございます」
門番の二人は、それを聞いて少し戸惑った様子だった。
「『蒼きつるぎ』の勇者はあのソルテスという娘ではなかったのか?」
「訳あって、今は彼が勇者です。聖域に行くため、契約を必要としています。どうか、おんばあ様にお伝えください」
「だが、今はそれどころでは……」
「入れてあげなさいな」
門の中から、一人の女性が現れた。シェリルは少しだけ、顔を明るくさせた。
「ディアナ」
「シェリル、久しぶり。この人たちが『蒼きつるぎ』の勇者一行なら、むしろ助けになるんじゃないの。きっとおんばあ様も、悪くは言わないよ」
「ディアナ、何かあったのですか。罠の位置も変わっているし……」
ディアナは表情を曇らせる。
「それだけの大事ってことよ。これまでにないほどの緊急事態なの」
「どういう……ことです?」
「ご神刀が狙われているの」
ディアナに招かれ、一行はザイド・オータムの門をくぐった。
山に囲われた里の中は、多くの長屋で構成され、奥にはいくつかの武家屋敷が建てられている。
ハヤトは、その光景に不思議と懐かしさを覚えた。
まるで、時代劇に出てくる町のようだ。
もはや考えるまでもない。ここは実在する忍者の里なのだ。
「なんだか……ふしぎなところね。初めて見るものばかりだわ」
マヤは思い切り警戒している。
「ここは、シェリルさんの故郷なんですね」
シェリルは頷く。表情はまだ固い。
「はい。ここの人々は自らを『忍』と名乗り、『忍術』と呼ばれる独自の魔法の訓練を日々行っています。ここを出て外国に行く人も少なくないのですが、帰ってくる人はほとんどいません。ですから……少し閉鎖的で、私のように外に出た人間は、あまりよく思われていません」
最後のほうのせりふは、聞き取れないほど声が小さかった。
だからこそ、シェリルはこんな態度でいるのだろう。
忍術、と聞いてロバートがあごに手をつけた。
「さっきの眼帯の奴が使った不思議な魔法が、『忍術』ってやつか。あの野郎は、あんたの兄さんなのかい?」
シェリルは、あたふたしながら答えた。
「あ、あの術は、火遁といってその、魔法とは違くって……あ、あに様と、ちっ、血のつながりはありません。でも、小さな頃から、よ、よくしてくれていて……その」
前を歩くディアナがぷっと笑う。
「相変わらずだね、シェリル。あに様と会ったの? 何もなくてよかったね。あの人は今、とんでもなく必死だよ。相手が、相手だから……ね」
シェリルが、深刻そうに振り向いた。
「ま、まさか……」
「詳しくは、中で聞くといいよ」
ディアナぐいと親指を立てた先には、巨大な忍者屋敷がたたずんでいた。