その1
炎に包まれた森の中で、黒い服を着た男が倒れている。
傍らには、同様の服を着た一人の女性が寄り添うようにして座り、肩をふるわせていた。
「泣くな……俺は後悔などしていない」
男が言った。その声は優しかった。
女は、いやいやをするように首をふる。
頬を涙が伝った。
「嫌だ……あなたがどう思おうと、私はこんなの、嫌だ……」
「おまえに、涙など似合わない」
女は、すがるように言った。
「だったら、立ち上がってよ……また、抱きしめてよ……」
「すまない。もう、できそうにない。これが、俺たちの運命だったのだ」
「こんなのって、ない……」
森の炎が、どんどん強さを増す。
男は苦しそうにうめく。
女は男の手を取り、強くつかんだ。
「早く、行け。おまえだけでも生き延びるのだ」
「行けるわけ、ないでしょ……私も、このまま一緒に……」
「馬鹿者……! おまえにはやらねばならぬことがあるのだろう……! 行け。行って、俺たちの分まで生きてくれ」
「私、何を信じればいいのか、もう、わからないの」
男はせきをしながら、手に力を込めた。
その口から、どす黒い血が吹き出す。
女が、それを見て表情を変えた。
「何を……!?」
「ならば、生きていてくれればよい……。おまえが、生きてさえいてくれれば、私は」
男の手から光があふれ、女を包み込む。
「生きよ。さらばだ……」
「ロック! ロックッ!」
ロックとよばれた男は、笑みを浮かべた。
女は、最後まで彼の名前を呼び続けた。