その9
「全員、援護してくれ!」
ハヤトは地を蹴り、飛び出した。仲間たちも同時に走り出す。
巨人の胸が光る。
ミランダが舌打ちした。
「さっきのが来るよ!」
「任せて! ルーちゃん!」
「はいなの!」
マヤとルーが“魔力”を練る。
「『ウォール』っ!」
巨人の放った光線が射出されるのと同時に、空中に“魔力”の壁が構築される。
二人の作った「ウォール」はあっけなく破壊されたが、光線の方向が変わり、天井で爆発した。
「今のを食らったら一発でおだぶつなの!」
「だったら、一撃で決めればいい!」
ハヤトは一直線に駆けていく。後ろにロバート、ミランダがつく。
「ハヤト君、足しになるかわからんが、君とミランダに『チャージ』をかける。ミランダは援護しろ!」
「へっ、後ろから指示とは偉くなったもんだね、ロバート!」
「うるさい!」
ロバートは両手に“魔力”を込め、二人の背中を叩く。
ハヤト、ミランダの両者はぐんとスピードアップした。
「よし、このまま行くぞ!」
「ハヤト、上っ!」
ハヤトが見上げると、巨大な岩の手が、こちらに落下してきていた。
「うわああっ!?」
ミランダはハヤトを突き飛ばすようにして、横っ飛びする。岩の拳は地面にたたきつけられると、床を吹き飛ばしながらバラバラになった。
ミランダは指をはじいた。
「バカめ! 自爆しやがった!」
だが、巨人が腕を上げると、ばらけた部品が飛んでいき、拳が再生された。
「そっ、そんなのありかい!?」
「サンキュー、ミランダさん!」
ミランダはしばし硬直していたが、すでにハヤトが走り出しているのを見て、後に続く。
ハヤトは、巨人の足下付近までたどり着く。
決める。一発だ。
ハヤトは脚に力を込め、大きく跳躍した。
ぐんぐんと巨人の中心に向かっていくが、その胸がまたしても光るのが見えた。
ハヤトはとっさに、「蒼きつるぎ」の刀身を盾代わりにして上方に向けたが、“魔力”の光線は途中で跳ね返っていった。
きっとルーたちの「ウォール」だ。
ぼんやり光る、巨人の胸が近づいてくる。
ハヤトは「蒼きつるぎ」を振りかぶった。
「いくぞおおおおおっ!」
ハヤトは、巨人の胸部めがけて「蒼きつるぎ」を叩きつけた。
だが、その寸前の部分で、剣が止まった。
“魔力”の火花が散る。
「障壁かっ!?」
よく見ると、ビンスが使っていた“魔力”の障壁が、斬撃を阻んでいた。ハヤトは力任せに「つるぎ」をおしやったが、火花が散るばかりで、進んで行かない。
こんなことは初めてだ。それだけ、この巨人の持つ“魔力”が強いということなのだろうか。
だったら……! と、ハヤトは叫んだ。
「この障壁を、『破壊』するっ!」
刀身が輝きを増した。
同時に、少しずつ剣が先に進み出す。
もう少しだ。だが進みが遅い。
そうだ、「蒼きつるぎ」の本質が「破壊」だと言うのなら。
この巨人ごと破壊できはしないだろうか?
考える時間も惜しいハヤトは、そのまま口を開く。
「この巨人を!」
だが、その時。
これまでにない悪寒が、彼を襲った。
嫌な予感がする。何かまずいことでもあるのだろうか。
だが、ここで倒しておかなければ。
「『破壊』……!」
言葉は、そこで止まった。
「蒼きつるぎ」の柄の先端についている紅い飾りが、強く輝き出した。同時に、彼の体に、押しつぶされそうなほどの衝撃がのしかかった。
「ぐあああっ!」
この衝撃には、覚えがある。というよりも、記憶に新しい。
「ザイド・アトランティック」号を持ち上げようとした時のものと同じだ。
ハヤトは、そこで出会った謎の女・アンバーの言葉を思い出した。
『やはりこの規模の破壊を行使するには……“魔力”が足りないか』
つまりは、対象が大きすぎたのだ。
この攻撃は失敗だ。
ハヤトは、だんだんと自分の力が抜けていくことに気が付いた。
まるで、剣に自分の生命力を吸われているようだ。
もはや自力で、攻撃をおさえつけることさえできない。
まずい。このままでは!
彼が恐怖にかられ始めたその時、巨人の胸が光り、爆発が起こった。