その8
「ジョバンニさん!」
ハヤトを無視して、ジョバンニはロープを引っ張り、浮いていたプレートを台からひきはがし、その手に取った。
「よう、勇者さま! 悪いね、迷ったもんでつけさせてもらったぜ……っと!?」
ジョバンニが言い終わる前に、コリンがナイフを手に取って襲いかかった。彼は攻撃を受け流した。
「いきなり何しやがる!」
コリンは顔をひきつらせて、もう一度彼に飛びかかる。しかし、これも見事なまでにするりとよけられた。
「すぐに戻しなさい。何をしたかわかっているの……!」
「知らねえよ、ダンジョンの奥にある秘宝、そいつを手に入れるのがトレジャーハンターのだなあ!」
彼がそこまで言ったところで、部屋全体がごごごごと揺れ出した。
コリンが狼狽する。
「せ、精霊様! すぐにお返しします! だから……!」
『ヨリシロ……カエセ……』
その言葉には既に、さきほどまでの知性はみじんも感じられなかった。
部屋が揺れると共に、台のすぐ奥にある大きな岩が動き出す。
岩の横の壁から、大きな振動を伴ってごつごつした棒が飛び出し、突き刺さる。岩はそのまま空中に浮き上がると、今度は床から同様のものが突き出し、人の形を取った。ハヤトたちの数十倍はあろうかという岩の人形は、その手で台座を掴むと、ぐいをそれを引き上げる。
周囲の床が崩れてゆく。ハヤトたちは背を向けて逃げ出した。
『カエセ……!』
人形が台座を胸に突き刺すと、その部分が黄色く輝いた。
岩石の巨人が、彼らの前に立ちふさがった。
「う、うおおっ! なんだよこれ!?」
声を上げたジョバンニだけではない。誰もがその巨体にひるんだ。
コリンは必死に精霊に向かって叫ぶ。
「精霊様! どうかお静まりを!」
だが、声は届いていない。胸の部分が大きく輝くと、その周辺に“魔力”の塊のようなものが射出された。床が一瞬にしてはじけ飛ぶ。
コリンはその場に膝をついた。
「精霊様が暴走を始めてしまった……こうなってしまっては、依り代を戻しても無駄だ……精霊様が、ザイドを破壊してしまう」
「だったら……」
ハヤトとマヤが、同時に剣を抜く。
ルーはその間に入って、フードを取った。
ミランダは槍を背中から取り出し、構えた。
ロバートは既に矢をつがえている。
「俺たちが、精霊様を止める!」
コリンは声を荒げた。
「できるわけ、ないっ! 精霊様は本来、大陸を統べていた魔神を分割して、封印したもの。人間に勝てる相手じゃない!」
「コリン」
ハヤトが、目を閉じて言った。
蒼い“魔力”が、彼の周囲から放出されていく。
「俺たちは大陸だけじゃなく、世界までめちゃくちゃにしようっていう魔王と戦おうとしているんだ。だから、このくらい止めてみせなきゃ……」
勇者は、岩の巨人を見据える。
その手には、「蒼きつるぎ」が握られていた。
「ソルテスに笑われるぜっ!」