その7
『人間か』
ハヤトたちが歩いて近づいていくと、台の方角から声がした。力強く太い、男性の声だった。
コリンが前に出て、ひざをつく。
「夏の精霊様。スプリングのコリン・レディングでございます」
コリンの口調や声色は、明らかにこれまでのそれと異なっていた。それだけ気を使うべき相手なのだろう。
『覚えている。ルドルフはよくやっているか』
「もちろんでございます。精霊様、本日は加護の契約をお願いできればと、こちらに参りました」
少し間を置いて、声が返ってくる。
『こやつらは何者だ』
「……『蒼きつるぎ』の勇者一行、でございます」
コリンは、少し言いにくそうにしていた。
『勇者……? ソルテスはどうした』
「ソルテスは、その……」
『人間であれば、以前ソルテスと契約をしたはずだ。勇者はソルテス一人だ。きさまにもわからないわけではあるまい』
「う……」
コリンがひるんでいると、背後から声がとんだ。
「ソルテスは、魔王になりました。俺はハヤトと言います。今は俺が勇者ということになります」
コリンは驚いて、思わず立ち上がってしまった。ハヤトは彼女に目配せする。
『ソルテスが、魔王に? どういうことだ』
「その理由を確かめるために、魔王の島へと向かう旅をしています」
『なんと愚かな……! 加護を受けた人間、それも勇者が魔王などと!』
「彼女を止めるためには、あなたの加護が必要です。どうか、お願いします」
『ありえぬ! 同時期にあれの使い手が二人も存在できるはずがない。貴様は偽物だ!』
怒号がとんだ。
誰もが息を飲んだが、ハヤトは黙って剣を抜いた。
すぐに周囲が蒼い光に包まれ、「蒼きつるぎ」が姿を現す。
『おおお……』
夏の精霊の声は、嘆いているようにも聞こえた。
『まさか、そんなことが……まさかソルテスは、既に……』
ハヤトは蒼い瞳を見開いた。
「ソルテスの現状について、何か知っているのですか!?」
夏の精霊は答えなかった。
『貴様らに加護を授ける』
「待ってください! まだ話は!」
ハヤトは問いただそうとしたが、コリンにそっと止められた。
ここで夏の精霊を怒らせてしまっては、元も子もない。ハヤトは気持ちを抑え、剣を鞘に戻した。
一行の体の周りを、黄色い“魔力”のようなものが覆った。
ハヤトはスプリングの時のように、再び過去のビジョンが現れることを期待したが、特になにも起こらなかった。
『加護は済んだ。次の精霊の元へと行くがいい』
全員がほっと息をついた。
魔王軍もいないようだし、どうやらここでの目的はすんなり達成されそうだ。
コリンが下げていた頭を上げた。
「ありがとうございます。では、これで……」
その時。
ハヤトたちの背後から何かが細いものが飛び出し、台座へと向かう。
それが先端を縛って輪にしたロープだとわかった頃には、プレートを輪っかが掴んでいた。
「やったぜ、ヒャッホー! お宝ゲットだ!」
凄腕トレジャーハンターの笑い声が響いた。