その6
しばらく地下の廊下を進むと、だんだんと辺りが明るくなり、ついには本来の通路に戻ることができた。
ハヤトがマヤらの名前を呼ぶと、少し先から声が戻ってきた。ハヤトとコリンは、小走りでそちらへと向かった。
少し開けた場所に、マヤたちの姿があった。
「ハヤト君! 大丈夫だった?」
マヤが笑顔を向ける。ミランダとルーに飛びかかられながらも、ハヤトは頷く。
「問題ないよ。どうやら、このダンジョンはコリンが以前来た時と変わっているらしい。元はあんな罠もなかったそうだ」
ミランダの顔つきがかわった。
「だとすると、ファロウの時と一緒だね。まーた魔王軍のしわざってわけかい」
「……かもしれない。いるならいるで、戦うまでさ。コリン、頼めるね」
「ええ。この辺りは、変わっていないみたいだから問題ないと思う。でも、さっきみたいな見えない罠が増えているかもしれないから、そこだけは注意して歩いて、ハヤト」
コリンは何事もなかったように歩いていったが、ハヤトたちは少しだけ面食らった。ミランダが腕を組む。
「けっ、なんだいあいつ。突然ハヤトを名前で呼びやがって。なにかあったのかい?」
ハヤトは少しほほえんで歩きだす。
「なんにもないよ。さあ行こう」
彼がそんな顔で言うので、女性陣は少し不満げだった。ロバートはその様子を見ていて、ちょっとだけ笑いそうになった。
それから一時間程度、モンスターと戦闘しながら通路を進んだパーティは、開けた部屋に到着した。
先ほどまでの通路とは明らかに異なっており、異様なほど広かった。壁が劣化している様子はなく、床もこぎれいだ。
何より彼らを驚かせたのが、室内だというのに吹きこんで来る風だった。
「コリン、この風はなんなんだ?」
コリンが振り返る。
「精霊様の“魔力”の影響。ここが精霊の間。そして……」
彼女は、部屋の奥を指さす。
ごつごつとした大きな丸い岩が見えた。その手前に小さな石でできた台のようなものが設置されている。台の上には、拳大ほどの大きさの、三角形のプレートがふわふわと浮かんでいた。
「あれが、夏の精霊様」
ロバートが、こめかみに手を付けて台を見る。
「あの、ふわふわ浮かんでいる奴が、か?」
「違う。その先の岩。あのプレートは精霊様の依り代。あれに触ったら、生きて帰れない。話は私がするから、あなたたちは質問された時だけ答えて。精霊様の機嫌を損ねると、最悪死ぬ」
最後の言葉は、全員の心を引き締めた。