その4
右、左、後ろ。
三匹の獣が、うなりながらこちらを見ている。
「ど、どうするんだよ」
隼人が言うが、返答は返ってこない。マヤは少しふるえているようだった。
「オウルベアが、三体……これじゃ、勝ち目が……」
「さっきみたいな電撃で、なんとかならないのか?」
「見たばっかりでしょ。私の“魔力”じゃ通用しない。終わりだわ……」
先刻まで見せていた気の強さはすっかりとしぼみ、マヤは震えた声で言った。
オウルベア三体は、それを楽しむかのように、ぐるぐると周囲をまわって二人を囲む。
マヤはおびえて言葉も出ない。
だが、隼人は足下に落ちていた木の棒を拾った。
「くそっ、こんなわけのわからないまま終わりだなんてたまるかよ……!」
「あんた、この状況わかってるの……? 無茶よ……!」
「だからって、何もせずにやられるのを待つのか。俺はそんなの、ゴメンだよ」
そうは言っているが、隼人の足はがくがくとふるえている。マヤはそれを見て、うなづいた。
「そうね……。やってみましょう。私が電撃を撃つから、あんたは合図に合わせて突進して。うまくすれば逃げるくらいはできるかもしれないわ」
「そうこなくちゃ」
オウルベアが少しずつ輪をせばめてくる。マヤは腕をクロスすると、その手に青白い“魔力”があふれた。
「左目に傷がある奴をねらうわ。三数えでいくわよ!」
隼人がうなづく。
「いち、にの……」
マヤは腕をオウルベアに向ける。隼人は足に力を込めた。
「さん!」
マヤの腕から火花が散り、どんという音とともに電撃が走る。隼人は大声をあげて目に傷のあるオウルベアへ向かっていった。
だが、現実は甘くなかった。
マヤの動きを見ていたオウルベアは、立ち上がって電撃をかわした。
マヤは目を見開いた。
「しまった!」
隼人はストップしようとしたが、オウルベアが立ち上がったままその腕をあげた。
攻撃が隼人に迫る。
「う、うわああああっ!!」
「危ないっ!」
そのとき、光があふれた。
次で第1話終了です。