その2
男は水を力一杯飲んで、ぶはあと息をはいた。
「ああ、生き返った! 助かったぜ」
水筒をシェリルに返した男は、腕で口を拭った。
男はつばの長い帽子をかぶり、茶色い皮の服を着ていた。この砂漠を渡るには、いささか軽装すぎるように見える。
ハヤトがおそるおそる聞く。
「もしかして、この辺りの方ですか?」
「ザイド・サマーに人は住めない。たぶん、別の国の人」
後ろのコリンにつっこまれた。
男は立ち上がって大仰に手を広げると、被っていた帽子の長いつばを掴んだ。
「おうともよ! おれはラングウィッツからやってきたジョバンニ・ロストフ。凄腕のトレジャーハンターだ」
反応に困る面々。
あれだけの醜態をさらしておきながら「凄腕」を自称するその男は、自信に満ちた表情で彼らを見る。その瞳はきらきらと輝き、まっすぐにこちらを向いている。
思わず突っ込むのを躊躇するくらい、いい顔をしていた。
「凄腕の人は、バドルなしでこんなところまで来ない。あなたは、ただのバカ」
コリンが言う。しかし、ジョバンニはふふんと笑った。
「そうさ。確かにバカかもしれねえ。でもよ、バドルなしでこの砂漠を越えた奴はこれまで一人もいねえそうじゃねえか。だったらよ、男なら当然チャレンジするだろ。なあ?」
ジョバンニはロバートに同意を求めたが、彼は首を横に振った。
「悪いが、そう思うのはバカだけだ」
「なんだと。男はバカでいいんだよ!」
「バカでもなんでもいいけどさ……あんた、そのまま帰れるのかい?」
ミランダがやれやれと肩をすくめる。ジョバンニはしばし、彼女を見つめてから、叫んだ。
「なっ! なんて美人だ! マドモアゼル、お名前は?」
「質問を質問で返すんじゃないよ! アタシたちは急いでるんだ」
「なんだ、もしかして君たちも、この先にある遺跡を目指しているのか?」
「だから、質問を質問で返すなってんだ!」
とうとうミランダの拳が飛ぶ。
でも、その場にいる全員がちょっぴり、スカっとした。
「要するに、あんたらは噂の『蒼きつるぎ』の勇者ご一行ってわけか。こいつはまた、とんでもないパーティに救われちまったもんだなあ」
頬を腫れさせたジョバンニが、バドルに揺られながら言った。
結局、一行は彼を見捨てる訳にもいかず、それまでルーの乗っていたバドルを彼に貸すことにした。
ハヤトと一緒にバドルにまたがるルーは、ご満悦の様子である。
「ジョバンニ、おもしろいの」
「よくわかってるねえ、お嬢ちゃん。将来はいい嫁さんになるぜ」
「ルーはハヤトをお婿さんにするの」
「おおっ、なんという大胆発言! 勇者様も、隅に置けないねぇ」
「おい!」
耐えきれないといった風に、ミランダが大声を出した。
「あんた、何か勘違いしてないか。確かにアタシたちはバドルを貸した。でもあんたの向かう方向は、アタシらと逆のはずだよ。さっさとスプリングに戻んな」
「そう言わないでくれよ。遺跡に向かうんだろ? おれも、そこを目指してこんな砂漠くんだりまで来たんだ。一緒に行かせてくれよ」
「いいのかい、クソチビ。こんなの連れて行って」
「別にいい。うるさいのが一人増えただけだし、どちらにせよ助けない」
「え、えーと、お一人にするのも危ないですし、とりあえずは大丈夫ってことです」
シェリルがあわてて付け足した。