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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第11話「砂上の遺跡」
76/212

その1

 太陽が燦々と輝く青空の下、砂漠の中を進む数人の集団がいた。

 集団は全員がだぼついたフード付きの外套を着込んでおり、人間の丈ほどもある鳥のような生き物に乗って、延々と続く黄金色の道を北上していた。


 その中の一人が、鳥に揺られながらぷるぷると震えだした。首が何度かだるそうに垂れたあと、やがてフードに手が当てられた。


「だー! あっちー! もうやってらんないよっ!」


 フードをとったミランダが、空に向かって叫んだ。顔じゅうに玉汗がついており、自慢の銀髪もくしゃくしゃに濡れている。

 声に驚いたのか、鳥のような生き物たちは歩きを止めた。


「ミランダ、暑いのはみんな同じだ。そんなことをしても、いたずらに体力を消耗させるだけだぞ」


 後ろのロバートがフードをめくった。彼もかなり疲れた様子だった。隣のハヤトも、同じようにして顔を見せた。


「でも……ミランダさんの気持ちもわかります。ホントに、どこまで続いてるんだ、この砂漠は……」


 ハヤトは、延々と続く砂漠を見やる。

 むせかえるような暑さだった。地平線のむこうがぼけやけている。この砂漠の終わりは、ないのではないかとすら思えた。


 パーティ一行は、ザイド・スプリングの都を離れ、ここ、ザイド・サマーに足を運んでいた。

 ハヤトは、最初「サマー」と聞いて、海と砂浜を連想した。なんて楽しそうな場所なんだろう、とすら思った。

 だが、現実はそう甘くはなかった。


「ご一行は、ここでギブアップ? 別にいいよ、私たちはスプリングに戻るから」


 先頭を進んでいた人物が、こちらに戻ってきて冷たく言った。ミランダはその人物をにらみつけた。


「おい、クソチビ。口の利き方には注意するこったね」


 「クソチビ」はフードを取った。

 桃色のくせっ毛が現れる。小柄な少女・コリンは、ミランダと同じような目つきを彼女に向けていた。


「それは、こっちのせりふ。もし仮に私たちの気が変わってあなたたちを見捨てたら、死ぬのはそっちのほう」

「コ、コリン。こんなところでけんかはやめてください」


 大柄なシェリルが、あわてて仲裁した。


 ふたりは、ザイドの王・ルドルフの命を受け、このザイド王国の旅の案内人となった。

 だが、都を発つ際、コリンはハヤトに向かって言った。


「あなたが本当に勇者なのだとしても、私はあなたを心から信用していない。私たちはあくまで、ルドルフ様の命令に従うだけ。それだけは、忘れないで」


 このひとことがきっかけになり、ミランダとコリンによる戦争が始まった。


「クソチビ。あんたはハヤトの『蒼きつるぎ』を見てないからそんなことが言えるんだよ」

「この間見た。ルドルフ様は信じたみたいだけど、私は信じてない。だってその人、一回出すのをためらったもの」

「それは、威力が強すぎるからなんだよ! ハヤトはベルスタでドラゴンを斬ったんだよ。だからそうならないよう、相手を思いやった結果なんだ!」

「すべて都合よく解釈すれば、そうなるね」

「なんだと、この!」


 ロバートはミランダを、シェリルはコリンをそれぞれ止めた。


「あのコリンって子、どうしてあんなに突っかかるのかしら……」


 マヤがつぶやいた。

 ハヤトにも、理由はわからなかった。


 だが、彼女たちが案内役に任命された事実は覆らない。そしてこの砂漠の中で協力しないことには、生き残ることはできない。

 結局、このまま進むしかないのである。


「コリンに、ミランダさん。あまり大声を出すとバドルがびっくりしてしまいます。この子たちが転んでもして歩けなくなったら、大変なんですよ」


 シェリルが大きな鳥のような生き物……バドルのくちばしに手をやった。

 この国の移動手段には、馬ではなくこのバドルが利用されるそうだ。ハヤトは一瞬だけ、やり込んだRPGのキャラクターを思い出したが、このバドルにはどうもかわいげがない。

 コリンは落ち着いたのか、バドルのえさを取り出して食べさせた。


「わかってる。このバドルなしでザイド・サマーの砂漠を越えようだなんてバカがいたら、顔を見てみたい」

「おいピンク頭。もしかしてそれはアタシのことかい? 確かに一回はこの鳥がキモすぎて拒否したけどな、知らなかったんだからしょうがないだろ!」

「誰もそんなこと言ってない。でも、そんな顔のような気がする」


 新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしたその時、少し先から男の声がした。


 全員が、顔を見合わせ、声のする方向へと走った。

 一人の男が、砂に倒れ込んでいた。


「助けてくれえ……バドルなしでこの砂漠をこえるのは、やっぱり無理だった……」


 バカが、いた。

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