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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第10話「春の都」
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幕間「ロバートとミランダ」

 それまで城のベッドで気持ちよく眠っていたミランダは、ふと目を覚ました。

 オレンジ色の間接照明が部屋をぼんやり照らしている。その、すぐ下の床ではマヤが苦しそうに横たわっていた。


 ミランダは思わず息をつく。

 今日は酒が残っているとは言え、彼女はあまりにも寝相が悪すぎる。


 からみつくマヤを抱き抱えて、なんとかルーの眠るベッドに乗せると、ミランダはテラスへと出た。


 夜風が彼女の銀髪を優しくなでた。彼女は手すりにもたれかかると、酒瓶を取り出して、口につけた。


「今から飲むと明日に響くぞ」


 すぐ隣から声がした。ミランダはあえて顔をそむけて、町の夜景を見下ろした。


「なんだいロバート、せっかくいい気分に浸ってたのに。雰囲気がぶちこわしだよ」


 隣の部屋のテラスで、ほぼ同じ体勢をとっていたロバートが眉を上げた。


「らしくないじゃないか。君にそんな感傷深い一面があったとは驚きだ」

「……ハヤトは?」

「よく眠っているよ。俺たちが飲んでいる間にも一悶着あったみたいだしな……今回の目当ての男は、襲いに来ないんだな」


 ミランダは鼻で笑った。


「時と場合によるんだよ。アタシがいつも猪突猛進していると思ったら大間違いさ」

「その言葉、タウラの傭兵宿舎でも同じ事が言えたか?」


 いたずらっぽく言うロバートに、彼女は沈黙する。


「ぶん殴るよ」

「勘弁しろよ。今日はお互い、疲れてるだろ」

「まだ酒が残ってんのかい。いやに絡むじゃないか」

「もうとっくに醒めたさ。ちょっと眠れなくてな」


 ミランダはようやく、彼を見た。


「ああ、確かにね。クラーケンに、魔王軍に、空飛ぶ船、そんでもって精霊だよ。アタシたちのこれまでの人生総結集しても、今日起こったことには敵わないだろうね」

「ああ……。近頃は少しばかり麻痺していたんだが、やはり俺たちは、『蒼きつるぎ』の勇者の仲間になっちまったんだな」

「なんだよ、ビビったのかい?」

「当たり前だろ。今日だって生きた心地がしなかった」


 沈黙。

 ミランダは、酒瓶を投げてロバートによこした。


「……その……なんだ。悪かったね、こんなことに付きあわせちまって」

「タウラの鷹と呼ばれたミランダ・ルージュに謝られるとは光栄だな」


 ロバートも、酒瓶をあおった。


「その謝罪は今更なんだよ、ミランダ。俺はもう君と、ハヤト君に乗ったんだ。それでもって、見てしまった。今までに得られなかったものすごいビジョンを。今となってはやめたいとは思わないな」

「役立たずだった割に、楽しそうじゃないか。自己嫌悪に陥ってないだけいいけどさ」

「言ってくれるなよ。それにミランダにとうとうやってきた、本気の恋が実るかどうかも気になるしな」


 ロバートは酒瓶を投げる。

 ミランダはそれを受け取らず、瓶は地面へと落ちて割れた。


「変わらないよロバート。欲しい男を手に入れる。いつもと一緒だ」


 ロバートはにこりとして、彼女を見る。

 ミランダは眉間にしわを寄せた。


「なんだよ」

「では、そういうことにしておこうか。ミランダ、今回の獲物は大変だぜ。なにせ勇者様だからな。なんだか不思議なほど常識に疎いし、彼からは何か特殊なものを感じるんだ。マヤちゃんを始め、ライバルも強力だしな。それでも俺は、鷹の健闘と幸福を願っているよ」

「ぶっとばすよ!」


 ロバートは少しだけ笑ってから部屋に戻っていった。

 ミランダは手すりに突っ伏し、町のところどころに残された灯りをじっと見た。


「あんたは、いつもそうなんだね。ただ、見ている。見て、くれている……」


 灯りは消えることもなく、明るくなることもなく。

 ただ、道を照らし続けていた。


【次回予告】

少年は指標とともに、夏を歩く。

彼らはただひたすらに、解答を求め続ける。

その問題すら、わからぬまま。


次回「砂上の遺跡」

ご期待ください。

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