その6
「……うえ」
ハヤトは店の外に腰掛け、風にあたっていた。
初めての酒は、おせじにもおいしいとは言えなかった。
ルー以外の三人の声が、時折店内から聞こえてくる。先ほどまでより、かなりテンションが上がっているように感じられる。
何より彼女らは、とても楽しそうに思えた。それが少しばかり、悔しかった。
こんなことなら、自分も飲めるようになっておくんだった。
ハヤトはしばらく頭を冷やした後、店に戻ろうとその場を立った。
「ひゃあ!?」
「わあ!?」
ハヤトは思わず声をあげてのけぞった。
立ち上がったすぐ目の先に、一人の女性がいたのだ。
全く同じタイミングでリアクションを取った彼女は、セミロングにそろえた藍色の髪をゆらしながらバランスをくずし、尻餅をついて転んでしまった。
ハヤトはあわてて彼女に手を差し出した。
「す、すみません、よく見てなくて。大丈夫ですか?」
女性はその手を見て、さらにおどおどしだした。
「あ……! あう……!」
「ど、どうしました?」
ハヤトが困惑しながら言うが、女性は恥ずかしげに目を泳がせ、そのまま硬直してしまった。
ハヤトにはわけがわからなかった。
「シェリル、ちょっとテンパりすぎ」
その後ろからもう一人、小柄な短髪の少女が現れ、シェリルと呼ばれた女性の手を取った。
「コ、コリン……。ひどいです、一人で行かせるなんて」
「だってそのほうが、おもしろいと思ったから」
「お、おもしろいって……」
立ち上がったシェリルは肩を落とした。小柄な少女・コリンが、ハヤトを見る。
「ごめん。シェリルはこの背丈のくせにねんねだから、男の人とまともに会話ができないの」
「は、はあ」
「こ、コリン!」
「事実じゃん」
コリンはあせるシェリルの背後にまわり、肩を掴んでぐいとハヤトの目の前に立たせた。
彼女の背はコリンが言うとおり高く、ハヤトは上を見上げる格好になる。
ミランダと同じくらいだろうか。
「さあシェリル、今度こそしっかりと」
「うっ……」
シェリルは、またもや何かを言いかけてもじもじしだした。
ハヤトは頭をかく。
「え、えーと。何か、ご用ですか?」
シェリルはしばらく返答しなかったが、つばを二、三度飲み込んで、ようやく言った。
「……ちょ……」
「ちょ?」
シェリルが“魔力”を込めた手で、ハヤトの頭を掴んだ。
「ちょっとだけ、眠っていてください」