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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第10話「春の都」
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その5

 冒険者たちで大いににぎわう、ザイド・スプリングの酒場。


「それじゃ、ザイド到着を祝って!」


 ビールが注がれたグラスを、ミランダが掲げる。

 同様のものを手にもつロバートが続くと、ハヤトたちもそれに倣った。


「か、かんぱーい」

「声が小さいよ! はい、乾杯っ!」


 ミランダは豪快にグラスをあおってビールを一気に飲み干すと、満足げにテーブルをたたいた。


「ああっ、これだよこれ! 戦いのあとの酒は最高さね」

「同感だな。さあ、ハヤト君も一杯やれよ」


 ロバートに勧められ、ハヤトはグラスの中を覗き込む。

 アルコールのにおいがした。


 酒だ。間違いなく、酒だ。

 彼は迷っていた。まだ未成年なのに、飲んでいいものだろうか。

 ロバートもそれに気がついたようだった。


「……どうしたんだ?」

「い、いやあ、お酒はちょっと」

「なによハヤト君、飲めないの?」


 ハヤトは肩を掴まれる。隣の席で、すでにグラスを空にしたマヤがこちらをにらんでいた。


「おいマヤ!? お前、飲んでいいのかよ!?」


 マヤは不思議そうに小首をかしげた。


「何言ってるの? それとも何、ハヤト君は私の酒が飲めないっていうの?」


 いつ彼女の酒になったのかはわからないが、ハヤトはあわてて首をふった。


「い、いや。そういうわけじゃないけどさ」

「なによ。そんな事言いながら、さっきから口を付けようともしないじゃない。ハヤト君は要するに、私の酒が飲めないわけね! 私、本当に悲しい!」


 マヤは目をすわらせて言った。

 ハヤトは、彼女の変貌ぶりにたじろいだ。

 ひどい絡み上戸だ。

 ミランダが「こりゃ、おもしろくなってきた」という顔でふたりを見る。


「マヤ、残念だったね。ハヤトはあんたの酒は飲めないってさ」

「ミランダさんは関係ないでしょ! さあハヤト君、はやく!」

「え、えーと……」


 改めて、ハヤトは思った。

 自分のいる世界とは、違うのだと。


 でも、だからと言って、お酒を飲んでしまうのはどうなのだろう。


「ル、ルー……」


 ハヤトは、思わず隣のルーに助けを求める。

 だが彼女は、すでに料理の入った皿を全て真っ白にし、うとうとしていた。


「ルー、おなかいっぱいで眠いの……」

「お、おい。この状況で眠らないでくれよ。さっき協力しあうって約束したじゃないか」

「ハヤト、ごめんなの……ルーはもう力になれそうにないの……あとはハヤトの力で、未来をきりひらいてほしいの」

「ちょっと、ルーさん!?」


 ルーは力尽きて首を垂れ、寝息を立て始めた。


「ハヤト君、何やってるのよ。酒がぬるくなっちゃったじゃない。ちょっとこれ、おかわりちょうだい!」


 マヤがハヤトのグラスをあけ、店のマスターに注文を入れると、すぐに新しいグラスがテーブルに置かれた。


「さあ!」


 マヤが顔を赤くしながらハヤトの腕にひしと掴まり、けしかける。


「マヤ、ちょっと騒ぎすぎだよ。……さーて、ハヤトはどうなるのかな?」


 ミランダは余裕の表情でこちらを見ている。


「へへへへ! ハヤトよお、さっさと飲めよ! でもおかしいなあ、さっきから世界が逆さまだぜ! 不思議なこともあるもんだなあ!」


 ハヤトは思わず二度見した。

 しばらく姿が見えないと思っていたロバートが、床でブリッジしていた。

 酒とは、こうまで人を変えるものなのか。


 だが、もう逃げられない。


「郷に入っては、郷に従え……か」


 ハヤトは決意して、グラスに口をつけた。

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