その4
五人は、ザイドの城下町に出た。
ベルスタとは違って道が大きく傾斜しており、ハヤトたちは夜の町を見下ろす格好になる。
道の脇には、武器屋や宿屋などがずらりと立ち並んでおり、人々がそこかしこで往来している。店の明かりが延々と連なり、光の筋を作り出していた。
「いやあ、活気があっていいねえ」
ミランダはうれしそうに辺りを見回した。
ハヤトは驚きでしばらく固まっていた。
「さっき城に行く時はどうってことなかったのに。ベルスタよりも人が多い気がする」
マヤが笑った。
「ここは世界でも有数の大都市なのよ。海を越えて、いろいろな人が集まるからね。大陸の中心地にあるベルスタとは、ちょっと雰囲気も違うわよね」
「それに繁華街だから、夜に活気付くのは当然さね」
「へえ……」
ハヤトはその光景に、不思議と懐かしさを覚えた。
まるで、修学旅行で行った観光地のようだ。
それと、もう一つ。
「なんだか、ベルスタよりもちょっと暖かいね」
「いいところに気がついたな、ハヤト君」
ロバートが指をたてた。
「ザイド・スプリングは『春の都』とも呼ばれているんだ。ベルスタだと時期によって四季が訪れるだろう? でもザイド王国のあるこの大陸は、場所によって季節が異なるのさ。要するにここはいつも『春』の気候なんだよ」
ハヤトは思わず、手を打った。
この、何かの始まりを予感させるような、さわやかで暖かい空気。
そうだ、まさに春だ。
「アタシもここに来るのは二回目だけど、やっぱりいいもんだね。居心地がよくて、住む人が増えるのもわかるよ」
「……でも、なんだろう? なんだか、不思議な感じがする」
ハヤトは、周囲を見回す。
何かが、足りない気がする。
「なにやってんだいハヤト、はやく行くよ。そこで固まってるルーも、はやくしな」
ハヤトは、自分の足下につかまってもじもじしているルーに気がついた。
「ルー、どうしたんだ?」
「ひ、ひ、ひとが、たくさんなの」
ルーはびくびくしながら辺りを伺っている。時折、通りかかった人に見られると、彼女は体をはねさせて、ハヤトの足下に隠れていた。
「心配しなくても大丈夫だよ。さっき乗っていた船だって、たくさん人が乗ってただろ?」
「ルー、あの船も人ばっかりで怖かったの。だから隠れてたの」
ハヤトは、彼女がマストの見晴らし台で眠っていたのを思い出した。
「なんだ、そうだったのか。だったらさ……」
ハヤトはしゃがみこんで、ルーに背を差し出した。
「実は俺も慣れてなくてさ。けっこうビビってるんだよ。だから二人で協力しようぜ」
「きょ、協力?」
「ああ。俺に乗って、危なさそうな人がいないかどうか見張っていてくれ。見つけたらすぐに知らせるんだぞ。その時は二人で逃げれば大丈夫だ。ほら、乗れ」
ルーはぽかんと口をあけてそれを聞いていたが、だんだんと耳がぴくぴく動くと共に笑顔になり、やがてハヤトの背中につかまった。
「さすがはルーのお婿さんなの!」
「だから、話が飛躍しすぎだって! ほら、行くぞー」
「わははは! ゆけ! わがしもべハヤト!」
「また別の方向に飛躍した!?」
二人はわいわいと騒ぎながら歩いてくる。その様子を見ていたミランダが、マヤに言った。
「ハヤトのやつ、出会った頃に比べて雰囲気が少し変わった気がしないかい?」
「うん。なんだかちょっと明るくなった気がする」
「どちらにせよあれは、ナチュラルなたらしタイプみたいだね。マヤ、今はあんたが一歩リードだろうけど、たぶんこれからもライバルが増えていくと思うよ」
マヤが、首をぐわんと曲げて赤面する。
「な、な! なんでそんな! 私はべつに!」
「言ってなよ。……アタシはそれでも、負けないからね」
ミランダは、少しほほえみつつも、挑戦的なまなざしを彼女に向けていた。二人はしばらく硬直していたが、ハヤトとルーが追いついて来たのを見て、再び歩き出した。
最後尾のロバートが肩をすくめる。
「まったく、うらやましいことで」