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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第10話「春の都」
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その4

 五人は、ザイドの城下町に出た。

 ベルスタとは違って道が大きく傾斜しており、ハヤトたちは夜の町を見下ろす格好になる。

 道の脇には、武器屋や宿屋などがずらりと立ち並んでおり、人々がそこかしこで往来している。店の明かりが延々と連なり、光の筋を作り出していた。


「いやあ、活気があっていいねえ」


 ミランダはうれしそうに辺りを見回した。

 ハヤトは驚きでしばらく固まっていた。


「さっき城に行く時はどうってことなかったのに。ベルスタよりも人が多い気がする」


 マヤが笑った。


「ここは世界でも有数の大都市なのよ。海を越えて、いろいろな人が集まるからね。大陸の中心地にあるベルスタとは、ちょっと雰囲気も違うわよね」

「それに繁華街だから、夜に活気付くのは当然さね」

「へえ……」


 ハヤトはその光景に、不思議と懐かしさを覚えた。

 まるで、修学旅行で行った観光地のようだ。

 それと、もう一つ。


「なんだか、ベルスタよりもちょっと暖かいね」

「いいところに気がついたな、ハヤト君」


 ロバートが指をたてた。


「ザイド・スプリングは『春の都』とも呼ばれているんだ。ベルスタだと時期によって四季が訪れるだろう? でもザイド王国のあるこの大陸は、場所によって季節が異なるのさ。要するにここはいつも『春』の気候なんだよ」


 ハヤトは思わず、手を打った。


 この、何かの始まりを予感させるような、さわやかで暖かい空気。

 そうだ、まさに春だ。


「アタシもここに来るのは二回目だけど、やっぱりいいもんだね。居心地がよくて、住む人が増えるのもわかるよ」

「……でも、なんだろう? なんだか、不思議な感じがする」


 ハヤトは、周囲を見回す。

 何かが、足りない気がする。


「なにやってんだいハヤト、はやく行くよ。そこで固まってるルーも、はやくしな」


 ハヤトは、自分の足下につかまってもじもじしているルーに気がついた。


「ルー、どうしたんだ?」

「ひ、ひ、ひとが、たくさんなの」


 ルーはびくびくしながら辺りを伺っている。時折、通りかかった人に見られると、彼女は体をはねさせて、ハヤトの足下に隠れていた。


「心配しなくても大丈夫だよ。さっき乗っていた船だって、たくさん人が乗ってただろ?」

「ルー、あの船も人ばっかりで怖かったの。だから隠れてたの」


 ハヤトは、彼女がマストの見晴らし台で眠っていたのを思い出した。


「なんだ、そうだったのか。だったらさ……」


 ハヤトはしゃがみこんで、ルーに背を差し出した。


「実は俺も慣れてなくてさ。けっこうビビってるんだよ。だから二人で協力しようぜ」

「きょ、協力?」

「ああ。俺に乗って、危なさそうな人がいないかどうか見張っていてくれ。見つけたらすぐに知らせるんだぞ。その時は二人で逃げれば大丈夫だ。ほら、乗れ」


 ルーはぽかんと口をあけてそれを聞いていたが、だんだんと耳がぴくぴく動くと共に笑顔になり、やがてハヤトの背中につかまった。


「さすがはルーのお婿さんなの!」

「だから、話が飛躍しすぎだって! ほら、行くぞー」

「わははは! ゆけ! わがしもべハヤト!」

「また別の方向に飛躍した!?」


 二人はわいわいと騒ぎながら歩いてくる。その様子を見ていたミランダが、マヤに言った。


「ハヤトのやつ、出会った頃に比べて雰囲気が少し変わった気がしないかい?」

「うん。なんだかちょっと明るくなった気がする」

「どちらにせよあれは、ナチュラルなたらしタイプみたいだね。マヤ、今はあんたが一歩リードだろうけど、たぶんこれからもライバルが増えていくと思うよ」


 マヤが、首をぐわんと曲げて赤面する。


「な、な! なんでそんな! 私はべつに!」

「言ってなよ。……アタシはそれでも、負けないからね」


 ミランダは、少しほほえみつつも、挑戦的なまなざしを彼女に向けていた。二人はしばらく硬直していたが、ハヤトとルーが追いついて来たのを見て、再び歩き出した。


 最後尾のロバートが肩をすくめる。


「まったく、うらやましいことで」

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