その3
「なんだか、えらい疑われっぷりだったなあ」
城の一室に案内されたハヤトは、傷だらけの鎧を脱ぎ、城から支給された布の服に袖を通しながら言った。
マヤは隣のベッドへと座った。
「仕方ないわ。元々ザイド王国は、ソルテスに救われた国として有名ですもの。ソルテスを神と崇める人も少なくないって話よ」
「にしても、ちょっとあの反応はねえ。あの船、『ザイド・なんちゃら』って言うんだろ? つまりアタシたちは、この国の船を救ったんだよ。もうちょっと感謝されてもいい気がするけどねえ」
「ミランダ、船を救ったのはハヤト君とマヤの二人だ。君は俺の矢を勝手に取ってぶんぶん投げていただけだ」
「ぎゃーぎゃ騒いでばっかりいたあんたに言われたくないよ!」
ロバートの首にミランダの股がはさまり、彼の頭が猛烈な勢いで地面に打ち付けられた。
プロレスの技はこの世界でも通用するものなのだ、とハヤトは関心した。
魔王軍やクラーケンの襲撃を退けた「ザイド・アトランティック」号は、ハヤトらの活躍もあり、なんとかザイド王国へとたどりついた。
しかし、その到着方法は、ルドルフが指摘した通り、あまりにも強引かつ無茶苦茶なものだと言えた。
それでも、ハヤトは満足感を覚えていた。
今回船に乗った人間の中に、死者は出なかったらしい。
涙を流しながら自分の手を取るバッシュ船長が、何度も強調して言ってくれた。
「君はまさしく勇者だ」と。
なにより、みんなを護ることができた。旅を続けることができる。それが一番うれしかった。
ちなみに、西山楓にそっくりな女、アンバー・メイリッジは到着後すぐ姿を消した。
「少しだけ、考える余地ができた。だが忘れないでほしい。君の力は、とても危険なものなのだと」
そう言う彼女の顔は、やはり少しばかり悲しそうだった。
彼女はいったい、何者なのだろうか。魔王軍のリブレとは知り合いだったようだが。
何にせよ、マヤと森野真矢のように、西山楓と何らかの関係があるのかもしれない。
ハヤトはなんとなく、感じていた。彼女とはまたどこかで会うことになるに違いない。
その時、「ぐう」と音が鳴った。
音の主は、ルーの腹だった。
彼女は三角耳を垂れさせて、おなかをおさえた。
「ルー、おなかすいたの」
「確かにな。船での戦いですっかり忘れてたけど、もう丸一日近く何も食べてなかったぜ。なあ、城下町に出て、何か食べて来ようぜ」
ロバートも同じようにする。ハヤトは意外そうにした。
「えっ、城でご飯とか、用意してくれるんじゃないんですか」
ミランダがハヤトの頬をぐに、とつついた。
「ハヤト、わかってないなあ。こんなキナくさいところでメシなんて食ったってうまくないよ。でかい町にたどり着いたら、その夜はもちろん……」
「もちろん?」
ロバートとミランダが同時に言った。
「酒場だ!」