その2
ザイド王国の主都、ザイド・スプリングの城の中。
ベルスタ王国の朱印がついた書簡を読み切ったザイドの王、ルドルフ・ザイドは、無言でそれを大臣に手渡した。壮年のベルスタ王と違い、ルドルフは一国の主としてはとりわけ若く見える。
彼はしばし、そのまま赤い絨毯をにらんでいたが、やがて、少し距離をおいた場所に立つ来訪者たちに向けて言った。
「君たちには悪いが……にわかには、信じられない」
「確かに、そう感じられるのも無理はありません」
返答したのは、マヤ・グリーンであった。
「しかし事実として、かつての勇者ソルテスはベルスタを襲撃し、多大な被害を出しました。そして、魔王の島への封印を解除すべく旅立った私たちの行く手を阻んでいます」
「ソルテス様のことは置いておくとしても、君らがとんでもないトラブルを起こしてここまで来たのは間違いなさそうだな。おかげで港はめちゃくちゃだ」
ルドルフは近くにある窓を見やった。すでに日が落ちかけ、空は茜色に染まっていた。
城を取り囲むようにして存在する民家や店の先に、港が見える。
半壊した大きな船が一隻、めりこむようにして桟橋とあたりの景色を崩壊させていた。周辺では男たちががれきを処理している。
ルドルフは、マヤの隣でひざまづいている少年を見た。灰色の鎧には無数の傷がつけられており、いかに激しい戦いをくぐり抜けて来たのかを物語っていた。
「ハヤト・スナップ君」
「は、はい」
ハヤトは少しばかり緊張した様子だった。
「つまりあれは、新しい勇者である君が『蒼きつるぎ』の力で起こしたことだということで、間違いないだろうか?」
「はい。すみません。コントロールが、利かなくて」
申し訳なさげに頭をかくハヤトを見て、ルドルフはため息をついた。
彼は確かに目撃した。光に包まれた大きな船が、自分の町の港に突っ込んでくるところを。
しかし、乗っていたのは見たこともない「蒼きつるぎ」の勇者だった。その上彼らは、かつての勇者ソルテスが魔王としてベルスタを襲撃し、世界を掌握すると宣言したから、封印の宝玉が眠る場所を教えてくれ、などと言い出したのだ。
ルドルフが混乱し、懐疑心を持つのは至極当然の事と言えた。
「……ともかく、今は少し頭を整理する時間がほしい。ベルスタからの来賓として部屋を用意させるから、今夜は城で休んでいてくれ。明日の朝には返答を出すよ」