その1
「戻りましたわ」
レジーナ・アバネイルが薄暗い空間のドアを開ける。
金髪の魔術師が、青白い光の点がちりばめられた空間を歩きながらすぐに出迎えた。
「ご苦労だった。どうだ、首尾は」
「なんとか。詳細を話す前に、彼を。ああ、重かった」
レジーナは、自分の“魔力”で浮かせていたリブレ・ラーソンを部屋内に入れ、床にどさりと落とした。
リブレは、目を開いたままがちがちとふるえ、何かをぶつぶつとつぶやいている。
金髪の男はすぐに表情を変えた。
「リブレ! いったい何があったんだ」
「……勇者の攻撃が男らしくないとか言って切れちゃって、使ったんですのよ。『あれ』を」
金髪の男は舌打ちして、彼の肩を掴んだ。
「リブレ、落ち着け。俺がわかるか」
「……グ、グラン……」
リブレはうつろげな目を彼に向け、小さく言った。金髪の男・グランは頷いて、彼の腕を肩にかけた。
「ソルテス! リブレがまずい。すぐに頼む」
グランは、玉座に腰掛ける紅い髪の少女に向かって言った。少女・ソルテスが手をかざすと、紅い光がリブレを包み込んだ。
「なあ、グラン……」
多少楽になったのか、さっきよりも正気を取り戻した様子のリブレは、荒い息を吐きながらつぶやいた。
「船を……斬ったんだ。僕たちのやっていることって……ひょっとしてさ……」
「リブレ、何も言うな。お前はとりあえず休め。苦労をかけたな」
グランが彼の肩に手をかけると、リブレの姿は光を伴って消え去った。
レジーナは肩をすくめる。
「グラン、あなたは少しリブレに甘すぎてよ」
「うるせえ。『あれ』を使わせるまで放っておいたお前にも責任がある」
「まあ、なんて人聞きの悪い! 私は止めたんですのよ。それに、アンバー・メイリッジが現れましたわ。召還したクラーケンを一匹沈められて、計画が少し狂わされましたの」
グランの表情が、一瞬にして冷たくなる。
「奴か……殺したのか?」
「いいえ。任務を優先しましたわ。まずかったかしら?」
「別にいいさ。どうせ奴は何も知らんからな。計画に狂いはない。……それで、どうだったんだ」
「勇者は、仲間を一人『ブレイク』させましたわ」
グランはさっきの玉座に振り返った。
「聞いたかソルテス。これでしばらくは大丈夫だ」
ソルテスは、喜ぶわけでもなく、悲しむわけでもなく。
ただ、わずかに頷いた。