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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第9話「海上決戦」
66/212

その14(終)

「すげえっ……! 海に落ちた乗客まで、一緒に浮かんでやがる!」


 思わず、ロバートがつぶやいた。

 「ザイド・アトランティック」号がどんどん空へと向かっていく。


「船長、ザイドの方向はどっちだい!?」


 甲板をよじ登り、船長席にたどりついたミランダが叫んだ。

 バッシュ船長は、何が起こっているのか全く理解できていなかったようだが、南東を指をさした。


 ミランダはロバートの矢を、その方向に思い切り投げた。


 ハヤトとマヤはそれを確認すると、頷きあい、そちらに向けて船を動かし出した。

 球体は緩やかにだが、確実にスピードをあげていく。


「ぐうっ!」


 しかし、ハヤトはそこで強烈な重圧に襲われた。 

 アンバーが表情を曇らせる。


「やはりこの規模の『破壊』を行使するには……“魔力”が足りないか」


 なにより、ハヤトはリブレとの戦いで消耗しきっていた。

 なぜか、マヤが「翼」の力に覚醒した際に多少元に戻ったようにも感じられたが、彼の体には戦いの傷も残されている。


「ちいいっ! ここで踏ん張れないで、何が勇者だ!」


 ハヤトは気力で体を支えながら、光の筋を維持し続ける。

 だが、さらに大きな衝撃が起こり、彼に片ひざをつかせた。


「ハヤト君!」


 上空のマヤが叫ぶ。


 ハヤトは、荒い息をはきながら、もう一度立ち上がろうとした。

 体が重い。

 そこに再び、重圧の波がおしよせる。

 

 全身の力が、抜けていくようだった。

 気を失いそうになり、ハヤトは、その場から倒れかける。

 

「ハヤト!」

「ハヤト君!」


 ルーとロバートが飛び出し、彼を支えた。


「ルー……、ロバートさん」

「ハヤト、あきらめちゃダメなの! ルーの“魔力”も、使ってなの!」

「これくらいしかできないのが悔しいが、頼むぞ!」


 二人は“魔力”を練ってハヤトへと向ける。

 ハヤトは、なんとかそれに応えたかったが、重圧はさらに重く彼にのしかかった。


 アンバーは、それを見て冷たく言った。


「二人とも、無駄だ。“魔力”の受け渡しはそう簡単ではないし、人ひとりのそれでどうにかなるような問題ではない。君たちの“魔力”を無駄にするだけだ」

「だったら、ただ見てろっていうのか!?」


 ロバートが猛った。


「ハヤトはルーのお婿さんになるの! だからこんなところでくじけないの! きっとやってくれるの!」


 ルーも同様に叫んだ。

 ハヤトが、思わず声を上げる。


「ルー……ま、また、話が、飛躍した、な……。でも、ありがと、よ。か、回復したぜ!」


 ハヤトは、汗を流しつつも、笑顔を見せた。

 アンバーはその様子を見て、少しばかり驚いたようだった。


「ぐああああっ!」


 だがハヤトは、もはや気力だけで剣を上空に突き立てていた。ルーとロバートは必死に彼を呼ぶ。

 それを空から見ていたマヤも、苦しくなってきたようだった。


「ハヤト君が……あんなにがんばってるのに……! 君を助けるために、この『翼』を、もらったのに……!」


 マヤの翼に、小さな電撃が走る。

 確実に限界が近づいている。


「もう、だめ……!」

「くそおおっ!」





『グレイト・クルーズ! 発射用意!』





 その時、大きな声が轟いた。


 船長のバッシュだった。彼は魔大砲・「グレイト・クルーズ」の砲門のひとつにしがみついたまま、拡声魔法を使って言った。


『勇者よ、“魔力”が必要なのだろう! このグレイト・クルーズには、大魔術師の魔法ほどの“魔力”が込められている! 私らにも手伝わせてくれ!』


 船長が言うと、船員たちは一斉に砲門へと向かって準備を開始する。乗客らも、ハヤトの体を支えるようにして、船首へと集まった。


「勇者さま、頼みます!」

「どうか船を救ってくれ!」

「魔王軍と戦うあんたをずっと見ていた! あんたなら、きっとやれるよ!」


 船じゅうの声が、ハヤトに向けられていた。


 ハヤトは、不思議だった。

 もうとっくに、倒れているはずだったのに。


 なのに、どうして……。


「勇者ハヤト」


 アンバーが、自分の背中に手を添えていた。どうやらルーたちのように“魔力”を自分に向けているようだった。


「君は、不思議な男だ。こんなことをして意味があるとは思えない……。だが、なぜだか君なら、やってくれるような気がする」


『グレイト・クルーズ、発射!』


 船長の声が響く。

 「グレイト・クルーズ」から“魔力”の塊が飛び、ハヤトの周辺を包んだ。


 ハヤトは、その光に温かみを感じた。


 それだけではない。

 乗客たちの声、仲間の声。

 こんな危機的状況だというのに、ハヤトはそれを受け、笑っていた。





 「ほんとに、なんであんなに熱くなるかね」





 この世界に来る前の自分のせりふが、リフレインした。


 なんで熱くなる?


 その疑問は、今となってはあまりにも幼稚に思えた。

 この人間の気持ちの熱さを、気持ちの高ぶりを、自分は知らなかったのだ。


 彼は、雄々しく足を踏みしめ、立ち上がった。


「おおおおおーーーっ!」


 ハヤトの叫びとともに、光に包まれた船は、先に見える大陸へと向かって飛んでいった。


【次回予告】

可能性を得た少年は、新たに指標を手にする。

それが意味するものを知らずとも、

選択の余地は彼方に消えた。


運命はただ、刻を待つ。

闇の中に、小さな光を残しながら。


次回「春の都」

ご期待ください。

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