その13
「破壊の、力……」
ハヤトたちは凍り付いた船首部分に降りた。アンバーはそれを聞いて頷く。
「もうわかっているのだろう? 『蒼きつるぎ』は単なる威力の強い剣ではない。その力の本質は『破壊』にある」
ハヤトは思い返す。
オウルベアに始まり、ファロウの街道にビンスが作った障壁、そしてマヤの深い傷、先ほどの戦いでの「ウォール」の床。
そう、全て自分が「破壊しよう」と認識したものばかりだ。
「原理はわからんが、私はソルテスが『蒼きつるぎ』で様々なものを『破壊』するのを、この目で見てきた」
ハヤトは何か言いかけたが、アンバーが手で制す。
「もう時間がない。頼む、今はその力で、船を救ってくれ」
「で、でも、この状況をどうやって……」
ハヤトがうつむくと、肩に手が置かれた。
マヤが少しほほえみながら、こちらを見ていた。
「私を使って」
「マヤ!?」
「さっきの翼の力で、この船を運びましょう」
マヤは言い終わる前に、自分の体から金色の翼を再度出した。
アンバーはやはり少し悲しげに、その姿を見ていた。
「そうだな……彼女の力を媒介にするのが、一番合理的だ」
ハヤトは少し迷ったが、すぐに考えを切り替えた。
考えるだけ無駄だ。
護れ。今は全力で、みんなを護れ。
「わかった。やってみよう」
アンバーは「媒介にしろ」と短剣を一つ、彼に手渡した。
ハヤトが目を閉じると、蒼いオーラが彼の周囲にゆらゆらと立ち上った。
船長を含め、船に乗る全員がその姿を見ていた。
「剣よ……!」
「蒼きつるぎ」が姿を現す。ハヤトの瞳が蒼く輝いた。
先ほどまでと同じように、紅い紐が柄についている。アンバーはそれを見て、少しだけ目を細めた。
ハヤトは剣を上空に掲げた。
破壊する……。
いったい、何を破壊すべきだろうか。
少しばかり考えて、ハヤトは叫んだ。
「この船の『質量』を、『破壊』するっ!」
ハヤトの手元から、蒼い光の筋がのぼる。
光の筋は上空で無数のそれに分かれ、船を取り囲んで円を作る。
丸みを帯びた、光の檻ができあがった。
「マヤ、頼む!」
マヤの翼がはためき、檻の上部を掴んだ。
「いけるわ、ハヤト君!」
「よしっ、いくぞおおっ!」
船体が大きく揺れ出す。アンバーはそれを確認すると、自分の「凍雨結界」を、ハヤトたちが立っている部分を残して解除した。
同時に、船がゆっくりと上昇しだした。