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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第9話「海上決戦」
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その8

 ハヤトは仰向けのまま、冷たい海に深く沈みはじめていた。

 さっきまで自分を苦しめていた体の痛みがすでにない。

 意識が少しずつ遠のいていく。


 死ぬ。このまま死んでしまう。

 わけもわからないままこんな世界に飛ばされて、ひたすら痛い思いをして……。

 冒険は、ゲームの中だけで十分だったのかもしれない。


 でも、楽しいこともあった。森野真矢そっくりなマヤや、耳のぴこぴこがかわいいルー。かっこいいミランダさんと、ちょっと頼りない雰囲気が自分と重なるロバートの漫才コンビ。

 彼らとの旅路は、短かかったけど、楽しかった……。


 そう、楽しかったのだ。


 まだ、続けたい。彼らと冒険を続けたい。

 そしてユイに会わなければ。


 ハヤトは、冷たい海の中で必死にもがこうとした。

 だが、力が入らない。体が闇へと引きずり込まれてゆく。


 ダメなのか。

 もう、ダメなのだろうか。

 ならばせめて、マヤにお別れを言いたい。


 ハヤトは最後に、すがるように手をさしのべた。

 

 その手を、誰かが取った。



「ハヤト君! ハヤト君っ!」


 海上に上がったマヤは、肩に抱くハヤトを必死で呼んだ。

 ハヤトはせきこんで水を吐き出し、うつろげに目を開いた。


「マヤ……生きてんのか、俺……」


 ハヤトが声を出すと、彼女は涙と海水でびしょびしょになった顔をくしゃくしゃにして、「よかった」と彼にだきついた。

 体中の痛みが蘇り、ハヤトはうめいた。マヤはすぐに回復魔法をハヤトにかけてやる。

 心地よい“魔力”の流れがハヤトの傷を少しずつ癒したが、それでも彼は苦しそうにしている。


「傷が深すぎる……。私の“魔力”じゃ、全部治してあげられそうにないわ」

「すまねえ、マヤ」

「クラーケンは倒せたし、なんとか船に戻れれば……」


 マヤは自分の背後を見る。

 かなり遠方に見える「ザイド・アトランティック」号の船体を掴むようにして、巨大な触手がうごめいていた。


「ク、クラーケン!? どういうこと!?」

「ヤバいぞ……。早く戻ってあいつを倒さないと」


 ふたりは水をかく。しかし、船はだんだんと遠くなっていく。どうやら波に流されてしまっているようだ。


「くそっ、波か……せめて『蒼きつるぎ』が出せりゃあな……」


 ハヤトは悔しげに自分の手を見た。

 全く握力が出ない。剣が握れる状態ではない。


 マヤは何も言うことができない。

 キング・クラーケンが船のマストを数本つかみ、それをねじ切った。


「ちくしょうっ、みんなを護れないで、なにが勇者だよ……」

「ハヤト君……」


 船がちかちかと発光する。誰かが魔法で応戦しているようだ。

 その光景が、少しずつ遠くなっていく。


「俺に、もっと力があれば……」


 マヤは思った。



 違う。



 自分に、もっと力があれば。

 オウルベア、レッドドラゴン、館の魔物、そしてビンス。

 思えばハヤトに出会ってからは、彼に助けられっぱなしだ。

 今回も、彼一人に魔王軍との戦いを任せてしまった。

 どこかで、「蒼きつるぎ」さえあればなんとかしてくれると考えていた。

 でも違う。ハヤト・スナップは確かに伝説の勇者かもしれないが、自分と同年代の男の子でもあるのだ。

 彼ひとりにつらいところは任せっきりで、自分は運良く兄に会えればいいな。

 そんなの、都合がよすぎる。


 私が、もっと強ければ。

 あのモンスターを倒せるくらいの力があれば。

 ハヤト・スナップを、助けられる力があれば……!


「マヤ……?」


 ハヤトはマヤが再び涙を流しているのを見た。

 だが、さっきとは違い、彼女は強いまなざしを船に向けていた。


「ハヤト君。悔しいよ、こんなの……! 力がほしい。あなたみたいな、力が……。あなたを助けるための、力が……!」


 その時、マヤの背中に輝く亀裂のようなものが走った。

 ハヤトは目を見開いた。


「マヤ、それって……!」

「ハヤト君、私は、あなたと旅を続けたい! 兄さんに会うまで、諦めたくなんかないっ!」


 声に反応するように、亀裂が広がる。

 同時に、ハヤトは自分の手のひらが蒼く輝いているのに気がついた。

 彼は自然と、その手で亀裂にふれた。


 「蒼きつるぎ」が突如として現れ、マヤの体を貫いた。

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