その6
ハヤトは吹き飛ばされ、透明の床にたたきつけられた。
「ちょっと期待はずれだな。こうも簡単に攻略できちゃうなんて」
リブレはさわやかな笑顔を浮かべながら、首をさすった。
立ち上がりながら、ハヤトは思った。
強い。
「ドール」に攻撃を任せ、その場で立っていただけのビンスと違い、この男はその動きをとらえることすらできない。自分のスピードを完全に上回っている。どうやって攻撃しているのかすら、わからない。
リブレは剣を抜いた。
「さて……そろそろ、もっと痛くするよ。ついてこられるかい?」
ハヤトは「蒼きつるぎ」を構えた。
なんとかしなければ。
船長室でのやりとりをみる限り、攻撃がヒットすれば勝つことはできそうだ。
何かできないか。
リブレが消えたのを見て、ハヤトは再び身構えた。
次の瞬間、自分の右肩に鋭い痛みが走る。
剣が、自分の鎧を貫いて深々と突き刺さっていた。
「うわあああっ!」
思わず声を上げる。
リブレはかまわず、斬撃を続ける。
「ほら、なんとかしないと死ぬよ」
ハヤトの鎧に次々と刀傷が刻まれていく。
そんな中でも、ハヤトは考えていた。
なんとか、逆転の一撃を。
まず、この男の意表をついて動きを止めなければならない。
どうすればいい。
どうすれば……。
考えている間にハヤトは頭を蹴られ、再び床へと沈む。
リブレは剣についた血を払った。
「なんだよ、抵抗する気もなくなっちゃったのかい?」
ハヤトは、もうろうとする意識の中、自分が寝そべる床を見た。
はるか下方に「ザイド・アトランティック」号が見える。
人々がうじゃうじゃと船内を動き回り、パニックに陥っているのがよくわかった。
この床はガラスみたいに透明だ。
視点をずらすと、すぐ目の前に赤い点が見えた。自分の血痕だろう。
そこで、ひらめいた。
ハヤトは、そのままリブレのほうに目をやった。
彼が払った自分の血痕が、足下についている。
だが血痕は、途中から折れるようにして上部へと角度を変えていた。
まるで、そこに透明の壁があるかのように。
さっき、リブレの仲間と思われる女が魔法を唱えていった。
きっと「ウォール」でこの空間を作っていったのだ。
ならば、道はある。
ハヤトは痛みをこらえ、なんとか立ち上がった。
リブレはうれしげに、剣を構えた。
「そうこなくちゃね。さあ、いくよっ!」
脚を踏み込んだリブレが、しゅんと消える。
同時に、自分の背中に斬撃の痛みが走る。
これで確定した。やはりリブレは、この壁を利用して攻撃しているのだ。
ハヤトは振り返り、剣を振りかぶった。
リブレは例のごとく、瞬時に背後の壁を蹴って飛ぶ。
すぐにつき当たった壁を再び蹴り飛ばして方向を変えると、ハヤトの後頭部へと向かった。
だがハヤトは、そこで剣を逆手に持ちかえ、地面を強く突いた。
「この床を、『破壊』する!」
「なっ!?」
リブレが声をあげる。
「蒼きつるぎ」が「ウォール」を破壊し、床が崩壊した。
ハヤトを狙っていたリブレは、勢いを抑えられずに「キューブ」の部屋から飛び出してしまった。
そしてリブレは見た。蒼き瞳が自分を見据え、落ちながらこちらに向かってくるところを。
「捕まえた!」
ハヤトの「蒼きつるぎ」が、リブレの体をとらえた。