その5
「あーあ、やっぱり強いなぁ。クラーケンごときじゃアンバーさんは止められないね」
空を舞う小舟に乗るリブレが、船首の様子を見ながら言った。隣に腰掛けるレジーナはため息をつく。
「まったく、何をしに来たんですの、あの方は」
「僕らのことが気になるみたいだよ。まあ当然か。とにかくレジーナ、次も頼むよ」
「もう準備できてますわ。それより、彼が見てますわよ」
レジーナが指をさす先には、船のへりに立って小舟をにらみつけるハヤトがいた。
「よーし、次は負けないぞ。レジーナ、『キューブ』ね」
「人使いが荒いこと」
レジーナは“魔力”を練り、「ウォール」を空中に精製した。リブレはそれに飛び乗ると、人指し指を立てて挑発した。
「来なよ」
ハヤトは、「蒼きつるぎ」を肩に乗せて飛んだ。
すたん、と空中に着地する。
「ハヤト君、君の『蒼きつるぎ』の力はよくわかった。次は本気で行かせてもらうよ」
「ふざけんな。お前には何もさせやしねえ」
「おお、怖いな」
ハヤトは思わずいらだった。
この男、船をめちゃくちゃにしておきながら、どうしてこうもふざけていられるのだろうか。
「ナメやがって。いくぞ!」
ハヤトが「ウォール」の床を蹴る。
同時に、リブレが叫ぶ。
「レジーナ!」
「『キューブ』」
レジーナは「ウォール」をさらに五つ作り出し、ハヤトとリブレのいる空間を密閉した。
ハヤトは勢いのままリブレに斬りかかるが、彼は刃が到達する直前に姿を消した。驚きの声をあげる前に、リブレの蹴りが背後から彼を襲う。
「くっ!」
ハヤトは振り返ったが、すでにリブレの姿はない。
今度は左腕に衝撃が走る。攻撃が見えない。どうやら死角から狙われているようだ。
「ははは! ハヤト君、やっぱりだね」
どこからともなく、リブレの笑い声が聞こえてくる。ハヤトは必死に身を固めるが、次々に打撃を受ける。
「君は、どうにも戦い慣れてないね。『蒼きつるぎ』の威力は確かに驚異的だけど、当たらなきゃ何も意味がないぜ」
「だまれ!」
ハヤトは「蒼きつるぎ」を無我夢中で振り回したが、ほとんど意味をなさなかった。リブレはハヤトが剣を振りきったタイミングを見計らって彼の腹を思い切り蹴り上げた。