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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第8話「船上の告白」
52/212

その6(終)

 木製の小舟のようなものが、空に浮かんでいる。


「ああ、気乗りしないなあ」


 そこに寝転がる、一人の男剣士がつぶやいた。

 隣に腰掛ける魔導師風の女が、あきれたように肩をすくめた。


「また、それですの? ほんっとに、めんどくさい方ですわね」

「だってあんなにでかい船だよ? マストが何本もあるし、人もたくさん乗ってる」


 そう言って男は起き上がり、自分の乗る小舟から身を乗り出した。


 遙か下方の海に、大きな船が浮かんでいる。


「めんどうだよ。できれば、ザイドに着いてからの方がいいんじゃないかな」

「あなたはいつも、そうやって楽しようとするから、グラン君にソルテスを取られちゃったんですのよ」

「あーもう、うるさいな。グランとソルテスは関係ないだろ」


 剣士はいらついた様子だった。

 女は目を鋭くさせた。


「なんでもこの間は、ビンスが大けがしながらも任務を成功させて、ソルテスにそれをヨシヨシしながら治してもらったとか……」


 男はそれを聞くや否や、起きあがって腰の剣を抜いた。


「やるよ、レジーナ」

「わたくし、あなたのそういうところが好きですわ、リブレ」



 船はしばらく揺れたのち、ぴたりと止まった。


「なんだ、なんだ!?」


 乗客たちが次々と甲板へと出てくる。

 ハヤトとマヤは手すりにつかまっていた。


「大丈夫か、マヤ」

「ええ。一体、何があったのかしら」


 二人が辺りを見回していると、もう一度、同じ揺れが起こった。

 船が少し前へと傾く。

 

「クラーケンだ! クラーケンが出たぞーっ!」


 誰かの叫び声が聞こえた。同時に、船首から青く巨大な触手がぬるりと現れた。

 そこかしこから悲鳴が上がる。

 ハヤトは、状況がよくつかめなかった。


「マヤ、クラーケンってあの触手のことか!? 一体なんなんだ」


 彼女はちょっと青ざめていた。


「私も初めて見るわ……船を沈める海のモンスターよ。でも、大丈夫。たいていの船は対策してあるはずよ」


『みなさん、落ち着いてください』


 ほぼ同時に、辺りに声が響いた。

 船の中央に位置する船長室につけられたデッキに、男が一人立っている。


『当船船長のバッシュ・ルーズベルトです』


 バッシュ船長は手のひらに“魔力”を練りながら口を当てて話している。どうやら魔法で声を大きくしているようだ。


『クラーケンは確かにいくらかの船を沈めたことのあるモンスターですが、今回みなさまがご乗船下さっている「ザイド・アトランティック」号はこの五年で十ニ度、大魔術師の魔法ほどの威力を誇る魔大砲「グレイト・クルーズ」を用い、無傷で奴を撃退しております。少々揺れますが、撃退次第通常運行に戻ります。今しばらくお待ちください』


 船長の口調はあたかも「よくあることなので」といった風に落ち着いていた。クラーケンの出現は、この船にとっては大したことではないのだと、乗客たちも騒ぐのをやめた。


「ね」


 マヤが言った。

 同時に、客室の上にある大砲を、何人かの船員たちが動かし出した。


「魔大砲『グレイト・クルーズ』四号、発射準備完了!」


 同じように遠くから『グレイト・クルーズ』が発射できる旨を伝える声が響きわたる。どうやらいろいろな場所に設置されているらしい。


 最後に、クラーケンの触手付近に、一番門の大きな砲台が現れた。おそらくこれが主砲であろう。


『それではみなさま、船が揺れますのでご注意ください。「グレイト・クルーズ」、発射用意!』


 船長の合図とともに、例の空気がはじけるような“魔力”の収縮音が辺りに響く。全ての砲門から輝く“魔力”の塊がとび、主砲へと向かう。


 主砲がうなりをあげ、“魔力”をさらに増幅する。

 すごごご……と地鳴りのような音が響き、“魔力”が高まっていく。


「す、すごいな」


 ハヤトは目をみはった。“魔力”の錬成がまだうまく行っていない彼でも、思わず身がすくんでしまうレベルの巨大な“魔力”であった。

 あれをぶつけられたら、いかに強いモンスターでもひとたまりもないだろう。


『放て!』


 バッシュ船長が叫ぶ。


 だが、その直後のことであった。


 空から、細身の剣士が舞うようにして着地し、主砲のすぐ後ろへと立った。

 彼は、振り抜いた剣を鞘に納めて笑った。


「『秘剣・またたき』……なんちゃって」


 主砲が、まっぷたつに斬れて爆発した。

【次回予告】

少年は再び、悪意に立ち向かう。

来訪者の放つ言葉は、運命を揺蕩わせることができるのか。

それとも、ただむなしく響くのか。


次回「海上決戦」

ご期待ください。

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