その3
「ふ、船が満席!?」
ベルスタ王国は、アルゼスの港。
たどり着いた船着き場で、思わずマヤが叫んだ。
目の前の受付に座る男はぶすっとした表情で「それはもう聞き飽きた」と言ったふうに耳をふさいだ。
「魔王襲撃の一件以来、国を離れる人が増えてね。まあ、気持ちはわかるんだけどねえ。逃げてどうにかなるような話なのかねえ」
「わ、わたしたちは逃げる訳ではありません! 『蒼きつるぎ』の勇者をザイドに向かわせる任務を遂行中の騎士団員です。王から勅命状も預かっています」
マヤはちょっと頬を膨らませながらベルスタ王の勅命状を見せた。男はそれを見て驚いた様子だった。
「おおっ、じゃああんたらの中に噂の『ドラゴン斬り』の勇者が?」
男はパーティを見回す。
金髪の少女。美人だがどうやら騎士団の人らしい。
頭に奇妙なアクセサリーをつけた子ども。違うだろう。
弓を持った青年。戦い慣れた雰囲気はあるが武器が剣ではない。
剣を背負う少年。ちょっと頼りなげで、自分でも倒せてしまいそうだ。おそらく違う。
ばいんばいんのお姉ちゃん。美女だ。武器は槍だが……この中で一番強そうだ。
男はミランダに言った。
「あんたが勇者かい? すごいね、『蒼きつるぎ』を見せてくれよ」
「アタシじゃない。勇者はハヤトさ」
男は、ミランダが指をさす頼りなげな少年に目を向ける。
「お前が? 冗談はよしてくれよ」
さすがのハヤトも、これにはかちんと来た。
「だったら、証明してみせますよ」
ハヤトは剣を抜いて力を込める。
全員の視線が一点に注がれた。
だが、いくらやっても「蒼きつるぎ」は現れない。
彼は悔しさで頭を垂れた。
また、これだ。
「くそっ! いつも肝心な時に!」
「はいはい、芝居はいいから大人しく次の便を待ちなよ。近頃は不定期だから、たぶん一週間くらい先になると思うけど、もっと待ってる人もいるんだからね」
ハヤトたちは顔を見合わせた。
一週間も待てるはずがない。
なんとかして船に乗らなければ。
「ハ、ハヤト君。なんとか『蒼きつるぎ』出してよ」
「出そうとしても出ないから困ってるんじゃないか! みんなはいいよな、この気持ちがわからないんだから」
「ハヤト、落ち着くの」
「どうする、やっぱり鎧をひん剥くかい?」
「ミランダ、おそらくハヤト君はまたしてもドン引きだ。そろそろ彼のことは諦めるべきだろう」
ロバートのあごに強烈なアッパーがとんだ。
「で、でも、たしか前はそれで出たんですよね、ミランダさん?」
「そうだよ。こないだのほこらの時だって、みんなで服を脱がそうと引っ張ってたら出たじゃないか」
マヤの耳がちょっと赤くなる。
「だ、だったら……」
「ちょっと待て! どうしてそうなるんだ」
「んー? ハヤトが裸になると、『けん』が出るってことなの?」
「今までの話をまとめると、そうなるね」
思わずハヤトは後ずさりする。
三人がじりじりと近づいてくる。
「ハ、ハヤト君……その……言いにくいんだけど……」
「脱ぎな」
「脱ぐの!」
「いやああああ!」
ハヤトは逃げ出した。