その2
ファロウのほこらでの戦いから、数日。
ほこらで宝玉を破壊し、封印を解除したハヤトたちは、次の宝玉が眠るザイド王国へと向かうことになった。
ロバートたちから聞かされた話によると、ハヤトは先の戦いで、ビンスにとどめを刺す直前に意識を失ったのだという。ビンスもほぼ同時に姿を消したため、どこに行ったのかはわからないとの事だった。
ハヤトは馬車に揺られながら考えていた。
手段などははっきりしないものの、ビンス・マクブライトは生きているに違いない。
「蒼きつるぎ」を前に彼が見せた、奇妙な余裕が引っかかっていたのである。
ビンスは「『蒼きつるぎ』を見せてもらう」と何度か言っていた。
何か明確な目的があって、自分を待ちかまえていたに違いない。
そして、それを達成したからこそ、姿を消した。
すぐに思い立ったのは、ソルテス……ユイである。
彼女がどうして自分で出向いて来ないのかはわからないが、あの洞窟にしても、ユイがなんらかの目的をもって作ったものだったとすれば……。
もう一つ、気になっていたのは自分がいた世界のことであった。
森野真矢は、無事に危機を脱しただろうか。
それにしても、どうして時折あちらに戻ることができるのか。そして、どうしてしばらく思い出せないのか。
ハヤトは頭をぶんぶんと振った。
とにかく、現在やらなければならないことがいくつかある。
まず、マヤを護らなければならない。
理由は定かではないが、マヤ・グリーンと森野真矢には何か関係があるようだ。
ただ、そっくりなだけではない。
マヤを護ることは、真矢を護ることにつながる。それだけは明確であった。
そしてもうひとつが、「蒼きつるぎ」をしっかりと使いこなすこと。
「蒼きつるぎ」は確かにとても強い武器なのかもしれない。
だが、マヤのけがを治したように、その力にはまだ底があるように感じられる。
何よりビンスが「未完成」と言っていた。「蒼きつるぎ」にはまだ成長の余地があるのだ。
そもそも思い通りに出せるようにならなければ、またあんな悲劇を起こしてしまうかもしれない。
「蒼きつるぎ」の技術を自分のものにしなければ。
ハヤトは決意を新たにしていた。
「おいハヤト、難しい顔してどうしたんだい?」
そこにミランダが現れ、ぐいとハヤトの首に腕をからめた。
「ちょっと、考え事ですよ」
「何さもう。もっと喜びなよ。このベルスタでオウルベア五体をああまで軽々と倒せるパーティなんて、そうはいないはずだよ。騎士団でも二十人以上はいるだろうね。要するにアタシたちゃ、超強いのよ」
彼女は誇らしげに力こぶをつくり、もう片腕でハヤトをぎゅうと抱いた。
顔に柔らかいものが当たる。
「ちょ、ちょっと、ミランダさん! あたってます、あたってますよ!?」
「知ってるよ。なんなら触ってみるかい? 男はこの果実を触って成長するんだよ。契りはひとまず我慢してやるから、あんたもこれで成長しな」
「何なんですか、その理屈!」
彼女は結局、ハヤトたちについてくることになった。
ハヤトは一度「命の保証ができないから、無理してついてくることはない」と言ったのだが、ミランダはそれを聞いてなおさらやる気になったようだった。
「ミランダ。残念だがお前のデリカシーに欠けた発言に、ハヤト君はまたもやドン引きしているぞ」
「だから、よけいなことを言うんじゃないよっ!」
ロバートに向かってドロップキックが飛ぶ。
彼も、半ば強引にこの旅に同行することになった。
自分たちをだましていたビンスが許せない、との事だった。
もっとも、その台詞はミランダにほぼ強制的に言わされていたのだが。
「まったく、魔王の島に行くことになるなんて予想もしてなかったよ。でもまあ、だからこそ人生って面白いんだろうけどな。それにミランダの奴も放っておけないことだし……な」
この、ファロウを出る前に彼が言ったこの一言だけは本音だと、ハヤトは信じている。
ちなみに武器の弓は、実家から持ってきたものらしい。
なんでも、本人は剣の方が好きで剣士を志望していたらしいのだが、ハヤトの戦いぶりを見て、自分の一族が本来得意としている弓矢に切り替えることにしたそうだ。
「もう、何やってるのよ! そろそろアルゼスの港に着くわよ」
「つくわよーなの!」
御者席のマヤとルーが言った。