その6(終)
ハヤトは、はっとして目を開いた。
「目をさましたの!」
突然の大声。すぐ目の前にルーがいた。
上体を起こすと、そこはビンスと対決した「宝玉の間」であった。
しかし、洞窟全体を覆っていた輝きはなくなり、部屋も薄暗くなっていた。
ハヤトはすぐに、辺りを見渡す。
ロバートが少し離れた場所で、片ひざを立てて腰掛けている。
その下で倒れているのは……マヤだ。
「マ、マヤ!」
ハヤトは彼女のもとに走る。
ロバートがこちらを振り返った。
「どうやら、君は無事だったみたいだな。急に倒れたから驚いたぞ」
「そ、それより、マヤは……」
ロバートは眉を下げて、マヤに視線をうつす。
彼女は色白の肌をさらに白くして、目を閉じたまま横たわっていた。
胸のおぞましい傷も残っていた。
「マヤ……」
ハヤトが悲しげに言うと、マヤの口から吐息が漏れた。
まだ、生きている。
ロバートはそれを見て、“魔力”を練って彼女の体に触れた。
「見ての通り、彼女はなんとか生きている。だが……俺の回復魔法程度じゃ気休めにもならん。いま、ミランダが村に戻って回復魔法が使えるやつを連れてきてくれているが……それまで、持つかどうか」
ハヤトは、絶望的な状況であることを聞かされたというのに、なぜだかほっとした。
生きている。マヤは生きているのだ。
真矢と一緒だ。
まだ、助けられる。
その時、マヤの傷が少しだけ輝き、小さくなった。
「な、なんだっ!? 俺の回復魔法じゃ、こんな風にはならないはずだが……」
ロバートが驚いた様子で言った。
ハヤトはそれを見て頷くと、力強く地面をふみ、剣を引き抜いた。
「剣よ……。お前のことが、少しだけわかった気がする。お前は『悪しきものを破壊する』んだよな……だったら!」
次の瞬間、剣は「蒼きつるぎ」に変化した。
ロバートとルーが、思わず声を上げる。
ハヤトが、マヤの体にその切っ先を向けている。
「ハヤト、なにするつもりなの!」
「この傷を、『破壊する』ッ!」
ハヤトは剣を、傷に向かって思い切り突く。
ばきん、と何かが割れる音が聞こえると共に、マヤの傷がべりべりと空中に向けてはがれてゆき、やがて完全に消えた。
彼女はゆっくりと目を開いた。
「ハ、ハヤト……君……?」
「おはよう、マヤ」
マヤは、むくりと起きあがり、自分の胸元を見た。
服が血だらけだ。しかし、彼女は痛みを全く感じなかった。
傷が存在しないのだ。
「ど、どういうこと……? 確か私、人形の攻撃を受けて……」
「ああ、悪かった。俺があの時に『蒼きつるぎ』を出せていれば、あんなことにはならなかった」
ハヤトは、決意を新たにしていた。
真矢とマヤ。そっくりな二人にどんなつながりがあるのかは、わからない。
ただ、はっきりしたことがある。
俺が、やらなければならない。
「俺はもう、君を傷つけさせやしない。君は、俺が護る」
その時、「青きつるぎ」の柄の先端に小さなひびが入ったが、誰も気づかなかった。
【次回予告】
少年は海を渡る。
破壊の力が覚醒を初め、少女は可能性を得る。
悪意が何を意味するのか、彼らに知るすべはない。
次回「船上の告白」
ご期待ください。