その5
「……おい?」
隼人が、声をかける。
返事はない。代わりに返ってきたのは、真矢のうめき声だった。
「ぐっ……うう……」
「なんだよ、さっきの胴の当たりどころが悪かったのか? すまねえ」
「そ、そんなんじゃ……ううっ!」
真矢は胸をおさえ、その場でもんどり打って苦しみ始めた。
さすがに様子がおかしいと気づき、隼人は彼女に駆け寄った。
「おい、どうしたんだよ!」
「い、いた……い……苦しい……」
「大丈夫か!」
隼人は必死に真矢を揺らす。
その時、彼女の胸元から、赤い傷のようなものが見えた。
「ぐうっ……! ああっ……!」
傷はみるみるうちに大きくなってゆく。
隼人はすこし迷ったが、周りに誰もいないことを確認し、彼女の上着を脱がせた。
真矢の胸元に、大きな傷ができていた。
それを見た瞬間、隼人は自分の頭がはじけたような気がした。
「こ、これは……」
ハヤトは、全てを思い出した。
俺はまた、こちらに戻ってきていたのだ。
あれからマヤは、どうなった?
ビンスは? ルー、ロバート、ミランダは?
ソルテス……ユイは、どうなった。
「これは……いったい、どういうことなんだよ!?」
ハヤトは必死で叫んでいた。涙があふれてきた。
「真矢っ! ちくしょう、どうしてだよ……どうしてこっちの真矢に、あの傷ができちまってるんだよっ!」
ハヤトは真矢を抱きしめた。
頭がおかしくなってしまいそうだった。
ユイ。ユイはどこだ。
「ユイ、お前は一体何をしようってんだっ! くそったれ……! 真矢、お前だけは……!」
だが、どうすればいい。
真矢の傷はみるみるうちに広がってゆく。彼女の動きも次第に鈍くなっている。
「くそおおおっ! 止まってくれ! どうすりゃいい! どうすりゃあいいんだよおっ!」
ハヤトは焦りの中で、さきほど楓に言われた言葉を思い出した。
『剣は自己を高め、他人を救い、護るために存在する』
彼は汗をふきながら、自転車の荷台に挟んでいた竹刀袋を手に取った。
「剣よ……力が、他人を救い、護るために存在するっていうなら……こいつを、真矢を救ってくれ! 俺は、俺はもう、あんな光景みたくねえっ!」
ハヤトは真矢に叫ぶようにして、言った。
「剣よ、俺に……俺に力を貸せぇーーっ!」
ハヤトの体が、蒼い光に包まれた。
真矢の傷が同時に光りだし、傷の浸食が止まった。
「うぅ……おり……かさ……」
真矢がささやくように言った。
ハヤトは最初、信じられないといった風にそれを見ていたが、やがて目をつむった。
そうか、そういうことだったのか。
意識が、遠くなっていった。