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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第7話「女教師と剣の道」
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その4

「じゃ、ジャンプなんて汚くないですか」


 隼人が思わず言うが、楓はうんうんと頷いた。


「そうね。たぶん試合でやったら反則でしょう。でも隼人、それは剣道での話です。今のあなたの剣は、剣道ではなかった」


 楓はびし、と隼人の眼前に竹刀をつきつけた。


「――いつから、そんな剣を振るうようになった」


 突如として、楓の雰囲気が変わった。

 隼人は、周りの空気までが凍り付いたような気がした。


「剣の道とは、人の道、心の道だ。君が力を以て剣を振るうのは、他人を倒すためでも、快楽のためでもない」


 言い返せなかった。

 隼人は確かに、竹刀を振っていて、これまでにない高揚感を感じていた。

 不思議なことに、それが当然のことのように捉えられていたのだ。


「剣は自己を高め、他人を救い、護るために存在するのだよ。それがわからない奴に、剣を、力を持つ資格はない。私が戻るまでに今日は帰れ」


 楓は、竹刀をそっと置いて道場を出て行った。


 隼人は、面を取って息をついた。

 その通りだ。完全に見透かされていた。


「かなわねえな、あの人には。真矢、悪いけど今日はこれで帰るわ」


 隼人が振り返りながら言うと、彼女は驚いた表情で硬直していた。


「……どうした?」

「な、なんできゅうに下の名前で呼ぶのよ」


 真矢は少し赤くなっていた。

 隼人は頭をかいた。


 確かに。なぜだろう。


「あ……悪い。なんか、自然に呼んじまった」

「ま、まあ、べつに……いいけど」


 真矢は床を見て少しもじもじしていた。


「それじゃあ、帰るからな。部活、がんばれよ」


 真矢はしばらく答えなかったが、やがて言った。


「じゃあ……わ、私も帰る」



 ふたりは、自転車に乗って学校を出た。

 隼人はすぐ横を走る真矢を見る。


「おい、お前までサボっちまっていいのかよ」

「関係ないでしょ」


 真矢は顔を前に向けたまま言った。


「関係ないなら、どうしてついて来るんだよ」

「それはこっちのせりふよ。私は家に向かってるだけだもん」

「俺の家だってこっちなんだよ!」

「じゃあ折笠が道を変えればいいじゃない!」


 二人はそんなやりとりを続けながら自転車をこいだ。


 しばらく走って、町のシンボルである塔の建つ公園に出た。

 隼人は、自販機で飲み物を買おうと駐車場に入ることにした。

 だが、真矢も全く同じことを考えていたらしく、二人は結局にらみあったまま公園に入った。


 隼人は駐車場の縁石に腰掛けて、炭酸飲料の缶を開けた。真矢はウーロン茶のボタンを押して、商品を取った。


 公園には二人のほか、誰もいない。車すら停まっていない。

 隼人は缶を傾けながら、塔を見た。


「『小泉町スカイアロー』……いつ見てもショボいな。名前負け感が半端じゃねぇ」

「これって確か、景気がよかった頃に作ったんでしょ? 税金の無駄づかいよね」

「今どき、高さ八十メートルじゃあな……」

「しかも展望台が暑いのよね」

「ああ、エアコン入ってないからな。小学生の頃、冬に行って凍えたよ」

「そんなんじゃ、誰も入らないわよね……」


 真矢のとげとげしい雰囲気は消えていた。

 しばしの沈黙のあと、彼女が言った。


「それにしても、相変わらず先生はああなると怖いわね」

「昔からだよ。……でも、かっこいいんだよな」


 真矢はそれを聞いて少しだけ、いらついた様子だった。


「でれでれしちゃって」

「ば、バカ野郎。あの人は怒るとさらに怖いんだからな!? ほとんど鬼だぞ、鬼」

「はいはい。鬼でも美人なら、それでいいんでしょ。男ってみんなそうなんだから」

「誰もそんなこと言ってねえだろっ!」


 隼人は舌打ちして、飲み終えた缶をゴミ箱に入れようと自販機に向かった。


 その時、どさ、と音がした。


 隼人が振り返ると、真矢が倒れていた。

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