表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イモータル・マインド  作者: んきゅ
第7話「女教師と剣の道」
42/212

その2

 終業のチャイムが鳴った。


「おい、起きろよ隼人。ホームルームだぜ。また滝沢先生にひっぱたかれるぞ」


 机に突っ伏していた隼人は、ぐいぐいと肘をぶつけられ、上体を起こした。


「あ……」


 見慣れた教室。目の前には、笑顔を向けるクラスメイトたちがいた。

 隼人は、目をこすってのびをした。


「あー、よく寝た」

「隼人よう、お前、授業中ずーっと寝てるけど、それで夜に眠れなくなったりしねえの?」

「それはそれ、これはこれだよ。もし世界睡眠選手権があったら、俺は間違いなく優勝できるだろうな」

「そんな大会、ねえよ」

「だったら鈴木、お前が偉くなって作ってくれ。優勝賞金は、二人で分けようぜ」

「なんで賞金が出る前提なんだよ!」


 クラスメイトたちがげらげらと笑う。

 

 ホームルームが終わり、隼人が席を立つと、一人の少女が現れた。


「ちょっと折笠、待ちなさいよ」


 同じ剣道部の、森野真矢である。

 真矢は黒髪を揺らして言った。


「まさか帰るつもりじゃないでしょうね。今日こそ、決着をつけるわよ」


 隼人は、彼女の顔を呆然としながら見ていた。

 真矢が少し赤くなる。


「な、何見てんのよ」

「あっ、いや、悪い」

「それで、あんた今日も逃げ帰るつもりなの? ま、いいけどね。そしたら私の不戦勝よ」


 隼人はあごに手をやってから、言った。


「いや。勝負しよう」


 真矢は驚いて、一歩あとずさった。


「えっ!? 受けるの?」

「どうしてそんなに驚くんだよ?」

「だ、だって昨日まで逃げてばっかりだったじゃない」

「まあ、たまにはいいかもなって思ってさ」


 隼人はにっこり笑う。真矢は少し呆けていたが、眉間にしわをよせた。


「あんた、ナメてるわね。今日こそ、目にものを見せてやるんだから」


 二人は道場へと向かった。



「言っとくけど、一本勝負だからね。判定については打たれたほうの自己申告よ」


 袴姿になった真矢は、防具を着けながら言った。

 剣道は判定競技ではあるが、綺麗に一本が決まった時は、打たれた側のほうがよくわかる。

 勝つことにこだわりを見せる割に、真矢はその点においてはクリーンだった。


「わかってるさ」

「じゃあ、いくわよ」


 二人は礼をし、床に張られたビニールテープのバツ印に竹刀を向け、そのまま腰をおろして蹲踞そんきょする。


「はああっ!」


 声を上げて、真矢が立ち上がる。隼人も同様にして対峙する。

 勝負が始まった。


 じりじりと間合いをつめる真矢。隼人はすり足で後ろに下がる。

 真矢は自分から仕掛ける剣道で試合のペースを掴む戦術を用いる。対して隼人は、相手の動きを見てから返し技を狙うタイプだ。

 勝負になれば当然、先に動くのは真矢のほうである。


 彼女の竹刀がぴくんと動いた。

 右足を大きく踏み出しながら、突き刺すようにして面を狙う。

 竹刀が隼人の目前に迫る。


 だが不思議なことに、隼人にはその動きが奇妙なほど遅く見えた。

 隼人は右足を横に踏みだし、面をかわしながら真矢の左胴を斬り抜くようにしてたたいた。

 隼人が得意としていた、相手の出鼻を狙う逆胴であった。


 隼人は、面を打ち損ねた真矢に剣を向けた。

 「残心」といって、この動作をもって技が成立する。


「……胴あり、一本ね」


 それを見届けた真矢は、悔しそうに竹刀をおろした。


 その時、道場の扉ががたがたと開かれた。


「おや、珍しいですね」


 眼鏡をかけた女性が入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ