その1
「いやはや、助かった」
青白い光に包まれた暗い空間の中で、ビンスは笑った。
まだ頭部から流血しており、衣類もめちゃくちゃだ。
すぐ目の前では、金髪を肩までおろし、真っ赤なローブを羽織った青年が見下したような視線を向けていた。
「ったくよ、てめーはトロいんだよ。本当は助けるつもりもなかったけど、情報を持ち帰ってもらわなきゃ困るからな」
「ぶはは! 相変わらずのツンデレキャラだねぇ。ファロウからここまで移動するの、ホントは疲れたでしょ」
「……マジでぶったたくぞ、てめえ」
ビンスは大笑いしながら回復魔法で自分の傷を癒しだした。
その時、先にある大きな座椅子が光り、ビンスの傷が一瞬にしてすべて治ったどころか、破れた衣服までが元通りになった。
赤いローブの青年がそれを見て舌打ちする。
ビンスは、にっこりと笑みを浮かべた。
「ありがとう、ソルテスちゃん」
椅子には、赤い髪の少女……ソルテスが腰掛けていた。
彼女は無表情のまま、頷いた。
「ソルテス、“魔力”の無駄だ」
「おうおう、妬いてるのかい?」
「いっぺん燃えるか……?」
青年は“魔力”を練りだした。
ビンスはあわてて手をふる。
「いやいやいや、僕が悪かった。やめておくれよ。ここら一帯を火の海にされちゃ困るからね」
青年は咳払いして、ソルテスのほうへと歩いていった。
「……それで、どうだったビンス・マクブライト。やつの『ゼロ』は」
ビンスはにやけながらも、目を鋭くさせた。
「まるで、でたらめな力だよ。正直殺されるかと思ったね。でも、まだ使い方をよくわかってない感じだ。“魔力”にもむらがあったけど……仲間を一人殺したら一気に変わったよ。レベル五の『ドール』が一瞬でやられたわけだから、第三段階くらいまで行ったんじゃないかな」
「早いな」
「いやいや、あれは一時的なものだと思うよ。……でも今後、彼の『ゼロ』はどんどん成長するだろう。宝玉は、無事に破壊したようだ。あの分だと、たぶん“魔力”を使い果たしてブラックアウトだろうけれどね」
金髪の青年は少し心配げに、ソルテスを見る。
「ソルテス、それでいいんだな……?」
ソルテスは、彼を見ずに頷いた。
「うん。ありがとう、グラン」