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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第6話「魔術師ビンスとファロウのほこら」
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その8(終)

 ハヤトは、その光景をスローモーションのようにして見た。


 ドールの“魔力”をこめた拳が、マヤの胸に炸裂する。

 彼女の体は大きくくの字に曲がり、鮮血が散る。

 マヤはその体勢のまま、宙を舞う。

 金色の長髪が、空中で狂ったように暴れた。


 仰向けになった彼女は、どさり、と地面に落ちた。


「マヤっ!」


 ハヤトが駆け寄って彼女を抱えた。

 ミランダは、思わず立ち尽くした。ビンスは、その光景を見て楽しそうに笑っている。


「は、ハヤト……くん……」


 マヤの口から、吐息がこぼれた。胸部が血でどす黒くなっている。

 ハヤトの手も、すでにマヤの血で真っ赤である。


「マヤ……うそだろう、こんなの……」

「ハヤトくん……兄さんを……グラン兄さんを……おねが……」


 そう言って、マヤはがくりと首を垂れた。

 ハヤトは、それを呆然と見ていることしかできない。


「く、くそおっ!」


 ロバートが地面を殴った。

 

 ビンスが、腕をぐっと握る。

 すぐ近くにいたドールが、再び“魔力”を溜め、ハヤトに狙いを定めた。

 ビンスはにやにやしながら、“魔力”でドールに指示を与える。


 だが、ドールの動きはそこで止まった。

 ビンスが驚く間もなく、ドールはその場で狂ったように関節をがたがたと震わせ、やがてバラバラになって砕け散った。


 ハヤトの叫びとともに、蒼き光が彼の体を包んだ。


「『蒼きつるぎ』……!」


 ミランダがつぶやいた。

 ハヤトは、マヤをそっと壁に寄りかからせ、すでに大剣へと変化している「蒼きつるぎ」を肩に乗せた。


「ははは! 出たぞ出たぞ!」


 ビンスが大声を出しながら拍手した。


「やっぱり凄いな、『蒼きつるぎ』は。うーん、でもずいぶんと大きな剣だねえ。それ、振ることができるのかい?」


 ハヤトは剣を一振りして、ロバートに乗っていたドールを斬ると、それを勢いよく蹴りとばした。

 ドールはそのまま、跡形もなく消滅した。


 ビンスは、それを見て驚愕したようだった。


「なっ!? ぼ、僕のドールが一発で……? さっきのも、ただ消えたんじゃないのか?」

「黙れよ」


 ハヤトが静かに言った。

 彼の蒼い瞳からは、涙がこぼれていた。


「いい加減にしろよ……人を殺したんだぜ、お前……」

「それが、どうしたっていうの?」


 ビンスは腕を突き出し、残ったドールをハヤトに向けた。

 ……が、その瞬間にまっぷたつになった。


 ハヤトは、振り下ろした「蒼きつるぎ」を天にかざした。


「お前だけは、許さねえ」

「許しをこうつもりもないよ」


 ビンスは再び、地面をたたいてドールを出す。


「今度はちょっとグレードを上げて、数も増やそうか」


 十体のドールが現れた。


「さあ、どうだい? 次はミランダか、そこのお嬢ちゃんを殺しちゃおうかな? どうするハヤト? 君は……」


 ビンスの軽口は、そこで止まった。

 彼の頭に、すでにハヤトの手が乗っている。

 障壁は突き破られ、ドールはすべて倒れている。


「黙れってんだよおッ!!」


 ハヤトはそのまま、猛烈な勢いでビンスを地面に叩きつけた。


「お前は、ここで殺す」


 ハヤトは剣を倒れたビンスへと向けた。

 頭から血を流すビンスは、それでも笑っていた。


「やりなよ。『ゼロ』の破壊力に触れるのも悪くない」

「お望み通り、やってやるよ」


 ハヤトが剣を振りかぶると、「蒼きつるぎ」はそれに呼応し、輝きと共にオーラを大きくする。あたかも、刀身そのものがさらに巨大化しているかのようだった。

 全員が、ただそれを見ていることしかできない。


「おおおおおおおッ!!」


 ハヤトが、力任せに剣を地に叩きつける。

 部屋の奥に飾られていた、大きな赤い宝玉が砕け散った。


 光がすべてを包んだとき、マヤの腕が、ぴくりと動いた。

【次回予告】

第一の封印が破られ、少年は再び夢を見る。

次第に重なり始める運命に、訳もわからず巻き込まれながら。


次回「女教師と剣の道」

ご期待ください。

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