その4(終)
隼人は唯の部屋を見回した。
誰もいない。さっき確かに、返事が返ってきたはずなのに。
隼人は小走りでトイレへと向かってドアを開いたが、誰もいない。唯は完全に姿を消してしまった。
「唯、どこだ? おい!」
返事はない。
だがその時、窓にほのかな光が見えた。
そうだ。さっき確か、部屋から風が吹いてきた。
隼人は窓を開く。密集した夜の住宅地が眼前に広がった。ほとんどの家の電気が消えている。
そのため、すぐにわかった。さっきのほのかな光と同じものが、道を進んでいく。隼人はそこに妹の後ろ姿を見た。
なぜか輝く唯が走ってどこかに行こうとしている。
「唯! バカ野郎、お前は病気なんだぞ!」
声は届いていないようだった。
隼人は慌てて階段を降り、家を出た。
さっきの方向に、光が見える。
隼人は駆けだした。
唯はなぜ、外に出たのだろう。そしてなぜ、あんな風に光っているのだろう。
そんなことを落ち着いて考える暇もなく、足を前へと向ける。
しかしどういうことか、追いつく様子は全くない。
唯は中学生女子。それも肺の病気持ちだ。高校生の隼人ならばすぐに追いつくはずなのだが。
「唯、待ってくれ! どこ行くんだよ!」
光がふと、消えた。
隼人は大急ぎで走っていった。
そこは、草がぼうぼうと茂る、小さな空き地だった。
「唯! どこだ! どこ行った!」
隼人が叫ぶと、空き地の奥が、少しだけ光った。
「唯!」
そこには、ポニーテールの少女が立っていた。
隼人は妹の名を呼ぼうとしたが、思わずやめた。
確かに顔は唯なのだが、なぜか髪の色が真っ赤で、瞳の色も違う。そして妙な黒い服を着ている。
少女は、隼人を見てふふっと笑った。
「唯……なのか?」
少女は答えない。彼女を包む光が強くなった。
「おい、待てよ! おいったら!」
少女の体がすうっと消え始める。
隼人は目の前の、訳のわからない現象にパニックを起こしそうになった。
しかし、気づいた頃には光に向かって駆けだしていた。
少女の表情が、少しだけ変化するのが見えたところで、視界が光で塞がれた。
【次回】
少年の旅が始まる。
次回「裸の金髪少女と蒼きつるぎ」
ご期待ください。