その5
戦況は思わしくなかった。
ミランダが大声をあげながら突きを連射する。しかし、ドールはそれらをすべてはじきとばし、彼女の頬に拳をぶつけた。
「ぐうっ!」
その姿を見て、ビンスは腕を組んで口角をあげた。
「ミランダ、きみの声はやはりいい。どうだい、そろそろ僕とつき合うってのは? 強い男が好みなんだろう?」
ミランダは立ち上がりながら、血の混じったつばを吐いた。
「例え強くても……あんたなんかごめんだよ」
「残念だ。じゃあ、死ぬしかないね」
ロバートは、ルーを守るようにして人形と戦っている。
「おチビ。あの男を魔法で狙えるか?」
ルーは珍しくぶすっとした表情で、すでに“魔力”を溜めている。
「あの人……“魔力”はすごいけど、ハヤトを傷つけたの。絶対許さないの!」
ルーは「エッジ」を生成し、発射する。
しかしビンスはそれを“魔力”を込めた手で軽々とはじいた。
「人獣のお嬢さんは“魔力”の錬成が甘いね。だが筋はいい。末恐ろしいよ」
「えっ……!」
ハヤトとマヤは、二人で連携する。
「ハヤト君、次は左右で揺さぶって! 剣が出せない以上、冷静になるのよ」
「わかってるよっ! てやぁあああっ!」
ハヤトが人形の横から斬撃を浴びせる。
人形は左腕でそれを受け止めた。ガン、という重い音とともに火花が散る。
「くそ、堅いっ!」
「だったら!」
マヤの腕から電撃がほとばしった。握った手を人形にぶつけ、電撃魔法を直接浴びせる。
だが、効き目はない。人形はひるむことなく、マヤの腹を殴って吹き飛ばした。
ビンスはそれを見て額に手を当てた。
「あぁ、残念! 僕の『ドール』に電撃は効かないんだよね」
全員が圧倒されていた。
ビンスの人形「ドール」たちの戦闘能力は、いずれもハヤトたち一行を上回っていた。
ハヤトは初めての苦戦に、焦りを感じていた。
こんなところで負けていられない。
はやく、「蒼きつるぎ」を出さなければ。
「ちくしょうっ! 剣よ、どうして出ないんだ!」
ビンスがうんうんと頷く。
「だよね。おかしいよね。だってさっき、すごい量の“魔力”を出してたじゃない。もしかしてあれで全部使っちゃったのかい? だとすると、困ったな」
ビンスはハヤトのほうを向きながらも、腕を掲げて右方向から飛んでくるルーの「エッジ」をはじく。
「お嬢さん、ちょっとうざったいよ」
ルーは構わず、もう一度「エッジ」の詠唱を始める。だがビンスが指をはじくと、彼女の足下の床がどがんと突きあがった。
「ルー!」
ハヤトは人形の攻撃をかわしながら、空中に投げ出されたルーのほうへと走って受け止めた。
「大丈夫か!」
「び、びっくりしたの」
ビンスはそれを見て、何かを思いついた顔をした。