その1
「なんだ……こりゃ」
ハヤトは目の前の光景に、思わずつぶやいた。
隣のマヤも、ルーも、ロバートもミランダも同じ表情で固まっている。
眼前に見えるのは、小さな山の中にできた洞窟である。
しかし、山の形が明らかにおかしい。
岩の城とでも言えばいいのだろうか。山は明らかに、ベルスタの町で見たような城の形を模していた。
「ファロウのほこらって、元々こういうものなの?」
ハヤトの質問に、ロバートが首をふる。彼も動揺を隠せない様子で城を見上げている。
「いいや。俺たちがいた頃、つまり数日前までは、こんなものはなかった。ふつうの小さな洞窟だったはずだ。全く、一体何がどうなっているというんだ」
ハヤトたちは「魔王の島」の封印を解くための宝玉が眠る、ファロウの村へとたどり着いた。
さっそく宝玉のあるほこらに急いだのだが、待っていたのはこの奇妙な光景だった。
ロバートとミランダのふたりはこの村の出身で、数日前までほこらの警備の仕事をしていたのだという。だが、数日前に例の障壁が発生し、村へと戻れなくなった。
「いつからこうなったんです、村長?」
ロバートが聞くと、ファロウの村長は杖で彼の頭をたたいた。
「馬鹿者! あれだけほこらの監視を怠るなと言っておいたのに、ガスタルに遊びに出てしまいおって! お前たちがいなくなった次の日だ! 村の者が赤い髪の女を目撃しておる。おそらくそいつがやったに違いない」
赤い髪の女。
ハヤトが反応した。
「村長、それって赤い髪をポニーテールにしていて、黒い服を着た子でしょうか?」
「はて? 詳しくは聞いておらんが、赤い髪だったことは確かだそうだ。まだ年端もいかぬ少女だったそうじゃ」
たったそれだけの情報でも、ハヤトには確信できた。
これは魔王ソルテス……ユイがやったに違いない。
ひょっとしたら、この中にいるのかもしれない。
「マヤ。俺たちはここにある宝玉の封印を解放するためにここまで来たんだよな」
「え、ええ」
「じゃあ、急ごうぜ」
「ちょっと待った」
ハヤトを止めたのはミランダである。
「村長の爺さまよ。ビンスのくそったれはどこに行った?」
「ビンス? ああ、あのよそ者か。しばらく見ておらん。てっきり、お前たちと一緒にガスタルに行ったのものだと思っていたが」
ミランダはそれを聞いて拳を手のひらに打ち付けた。
「やっぱりな。だったらビンスがやったに違いないよ、これは」
「……かもしれんな」とロバート。
「誰ですか、その人?」
「この間まで一緒にほこらの警備をやっていた魔術師だよ。たぶん、ガスタルとファロウを障壁で塞いだのもあいつだと思う。タイミングがあまりにもよすぎたからね。ハヤト、アタシたちもついて行くよ。あんたは宝玉をぶっこわしに来たんだろ。道案内くらいはできるはずさ」
ハヤトは出鼻をくじかれた気分だった。
ビンスという男は、話を聞く限り、確かに怪しい。
だが、村長の言葉も気になる。
どちらにせよ答えは、洞窟に入ればわかる。
「わかった。行こう、みんな」
五人はほこらへと入っていった。