その6(終)
「でも、よかったわね。無事に『蒼きつるぎ』が出せて」
「う、うん……」
ハヤトはどもりながら言った。御者席のマヤは首をひねった。
「おい、ハヤト!」
ミランダが後ろから顔を出した。ハヤトは険しい表情で硬直した。
「ハハハ。さっきは悪かったね。つい、興奮しちまって」
「え、何? 興奮って?」
「なっ! なんでもないよっ? 何もなかったから!」
マヤが聞こうとしたが、ハヤトは必死にまくしたてた。ミランダはにやりと笑う。
「どうやら嫌われたらしいね。だが見てろ」
ミランダはハヤトに耳打ちした。
「お前は、アタシのもんだ。絶対にお前をアタシの虜にしてやる……『蒼きつるぎ』の勇者」
ハヤトの背中に、ぞくりとするものが走った。
ミランダは後ろの席に引っ込んでいった。
マヤは、それを怪しげに見る。
「なに。いまの」
「な、なんでもないって」
「じゃあなんでそんなに歯切れが悪いの? も、もしかしてハヤト君、私たちが障壁を調べてる間にミランダさんに……やっぱり変態……?」
「違うっつーの!」
「ちがうっつーの!」
なぜかルーが反芻した。
「おい、ミランダ」
ロバートが腕をくむ。
「なんだよ」
「その……ハヤト君に、惚れたのか」
「まあね。だってカワイイだろ? それに『蒼きつるぎ』だよ」
「……構わんが、男女たるもの、まずは純潔な交際を経てだな……」
「けっ、お前さんは古いんだよ。欲しいものは腕づくで手に入れるのがアタシのやり方さ」
「全く、お前ときたら。でもファロウに戻ったら仕事があるんだからな。もう四日も空けてしまってるんだ、早く戻らないと」
「ああ、そうだったな……まったく、あのクソ魔導師……次は蹴り飛ばしてやるぜ」
馬車は道を急ぐ。
【次回】
少年は、魔王の悪意に出会う。
深刻に、深刻に。運命は進んでいく。
次回「魔術師ビンスとファロウのほこら」
ご期待ください。