その5
一方、マヤとルーは障壁の周りで“魔力”を練っていた。
「ルーちゃん、どう?」
ルーは目を閉じながら言った。
「これ、『ウォール』が何層も重なってるの。たてにのばしてわかりにくくしてるけど、ぜんぶ『ウォール』の応用なの。たて、たて、よこ、よこ、よこ、それで長いたてなの」
マヤは目をみはった。
「やっぱり、凄いわね……。私はそこまで見えなかったわ。だったら、同じ形で相殺できるかしら?」
「うーん、ルーとマヤの“魔力”だけじゃちょっと足りないの」
「なら、俺も手伝おうか」
横にいるロバートが“魔力”を練りだした。
「まったく信じがたいことだが、原因がわかったんだろ? いくらでも手伝うぞ。君たちほどじゃないが、初歩の初歩くらいなら心得てる。どうだ、おチビさん」
「ロバートもまあまあなの。これなら足りるの」
「光栄の至り。それじゃあ一度クールダウンして、一気にぶち抜こう」
ハヤトは必死にミランダの手から逃れようとしたが、彼女は万力のように彼の体を掴んで離さない。
「ど、ど、どういうことですか、男になれって!」
「アタシは、強い男が好きだ。それとな、顔が好みだ。はっきり言おう、一目惚れした。だからアタシの男になれ」
「そんな、いきなりすぎますって!」
ミランダは上目遣いで歯を見せて笑ったあと、舌で唇をなめずった。
「いきなりでもいい。むしろ、そのいきなりがいいんじゃないのさ。おいハヤト、馬車でやるよ」
「や、やるって何をっ!」
「決まってんだろ、まずは男女の契りを交わすんだよ」
意味を理解してハヤトはパニックに陥った。
「ちょちょ、ちょっと待ってください、いやマジで! 順序が明らかに違います!」
「おっ、もしかして初モノかい? いいねえ、燃えてきた」
「待ってくださいよ! ロバートさんはどうなるんです!?」
「なんか勘違いしてるね。アイツは親戚だし、なによりアタシの好みじゃないんだよ。たまたま仕事が一緒なだけだ。ほら、さっさと行くよ。鎧も脱ぎな。……嫌がるならちょっと荒っぽくなるよ」
「ぎゃああああ! 犯されるうう!!」
ハヤトの瞳が蒼く光った。
「いちにの、さんっ!」
合図とともに、マヤは“魔力”を全開にした。
ルーは両手を横につきだし、ロバートは彼女の背中に手を当てている。
「うん、これならいけるの!」
「よしっ! ルーちゃん、もう一回三数えするから、私の『ウォール』に合わせて! その後の細かい相殺は任せるわ!」
「わかったの!」
「せーの、いち、にの……」
その時、マヤは青い輝きを見た。
ハヤトが猛然とこちらに飛んでくる。
握っているのは、『蒼きつるぎ』だ。
「うわああああーーっ!」
ハヤトは叫び声とともに、障壁へと激突した。
『蒼きつるぎ』はどんという腹にこもる音とともに障壁を貫き、ハヤトは街道のしばらく先まで飛んでいって岩に激突した。
その場にいた全員が、しばらく何も言えなかった。