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イモータル・マインド  作者: んきゅ
プロローグ
3/212

その3

「隼人、唯のことなんだけれど」


 ふたりでの夕食中、ふいに母親が言った。少し不安げだった。


「何か、聞いてない?」

「聞いてないって……なにが?」


 母親は少し言いにくそうにしていたが、眉を下げて口を開いた。


「最近、夜中に家を抜け出してるみたいなのよ」

「へ?」


 隼人はありえない、と言った風に手を広げた。


「唯が外に? あいつに出られる訳ないじゃん。それに母さんにだまってなんて、ありえないでしょ」


 しかし、母親の表情は変わらない。


「そうなんだけどね、たまに部屋の中にいないみたいなのよ。ノックしても反応がないし、一回、ドアを開けたこともあるんだけど……どこにもいなかったの」

「トイレとかじゃないの?」


 母親は首をふった。どうやら何度も確認しているらしい。


「それで、なんというか……不思議なんだけど、いつの間にか戻って来てるのよ。もしかしたらあの子、病気も治らないのに、黙って外に出てるのかもしれないって……」


 話によると、玄関のドアを開けた様子もないそうだ。


 唯は肺の病気持ちで、現在は自宅療養している。小学生時代に罹患し、一度はよくなったのだが、中学生になって再発。現在は学校にも半年近く行っていない。現在彼女が外に出るとすれば、薬をもらうために母親と病院に行く時だけである。入院や手術は、本人が嫌がっているためしていない。


 隼人は箸を置いた。

 先ほど彼女が言っていた「冒険」という言葉が引っかかった。

 あの言葉の裏には何かがある。唯は外で何かしているのかもしれない。


「信じられないけど、もし抜け出そうとしてたら、俺から注意しとくよ」


 隼人は部屋に戻り、「ベスドラ」を再開した。


 深夜一時。隼人は頭を抱えていた。


「ちくしょー……ぜんっぜんわかんねえ」


 隼人は「ベスドラ」のダンジョンで詰まっていた。攻略サイトをチェックしてみたのだが、ボスのいる部屋の扉の開け方だけが見つからない。本来なら詰まるような場所ではないらしい。

 鋼鉄のドアはなにをしても開かない。どこかでスイッチを押すのを忘れてしまったのか、はたまたフラグが立っていないのか。試行錯誤を続けたが、隼人はやがてベッドに突っ伏した。


 しばらくして、ふと、唯のことを思い出した。

 まだ起きているだろうか。あまり本意ではないが、やつに聞くのが一番ではなかろうか。どうせいつものようにバカにされるのだろうが、この状況が打開できるのなら、構わない。

 隼人は部屋を出て、廊下の突き当たりにある唯の部屋をノックした。


 反応がない。

 夕食時に言われたことを思い出し、少し不安になる。


「おい、唯。いるか?」


 がたり、と音がした。どうやらいるらしい。隼人はほっとした。


「入っていいか?『ベスドラ』のダンジョンがよ……」

「来ないで」


 やたらと冷たい、唯の声が返ってきた。


「そう言わないでくれよ、ここがクリアできねーと寝られないんだよ」


 返事はない。


 隼人に妙な感覚が走った。足下が少し冷たい。ドアの下から、少し風が吹いている。


「唯?」


 返事はない。

 隼人は、もう一度ノックした。

 

 返事は、ない。


 まさか、と思った隼人は、ドアを開いた。

 そこに唯の姿はなかった。

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