その4
ハヤトは地べたに広げたスクロールに手を置いた。
「たしか意識を集中させて、手に力を集めるイメージ……だったな」
実践してみると、手の平から少しだけ光が漏れた。ハヤトは口を開いて驚嘆した。
「おおっ、今の感じでいいのか? こいつは、案外早くできるようになりそうだぜ」
だが、どうしてもむなしかった。
自分以外の人間は、さっきの障壁で何か作業をしている。
ハヤトは、「蒼きつるぎ」が出せなかったことでマヤから戦力外通告を受け、さっき買ったスクロールで魔法を練習するように言われてしまったのだった。
「ちぇっ、自由に出せる訳じゃないんだな。出る時は自然に出るもんなんだけどな……」
「なあ、それってホントなのか?」
ハヤトが驚いて振り返ると、ミランダがいた。
無言でいると、彼女の眉間にしわが寄った。
「おい、聞いてんのか?」
「は、はいっ……」
ハヤトは気のない返事をした。彼にとって苦手なタイプだった。
ミランダはずかずかと近づき、ハヤトのスクロールを見た。
「へえ、魔法の練習してるのかい。最強の『蒼きつるぎ』があるのに?」
「ええ。魔法を使えるようになりたくて」
「それより、『蒼きつるぎ』を出す練習をしたほうがいいんじゃないのか?」
「ま、まあ確かにそうなんですけど、あれはどうやって出すのか、いまいちわかってないんです」
ミランダはしばし黙っていたが、ハヤトを見て言った。
「この間、ちょっとした噂を聞いた。なんでも『蒼きつるぎ』の勇者が、ベルスタでレッド・ドラゴンを一刀両断にしたとか……それって、もしかしておまえのことなのか?」
「え、ええまあ」
するとミランダはハヤトを立ち上がらせ、両肩を掴んだ。
「ちょ、ちょっとミランダさん?」
「やっぱりそうか。やっぱりか」
ミランダはにやりとした。
「アタシってさ……結構勘が強いんだよ。だから最初に見た時、なんとなくそんな気がしていた」
「は、はあ」
ミランダは続ける。
「あんた、名前なんて言ったっけ」
「ハヤトです、ハヤト・スナップ」
「よし、ハヤト……」
ミランダは、ハヤトに顔を近づけて言った。
「あんた、アタシの男になれ」
「は、はぁっ!?」